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5年目のふくしま
春、福島県双葉郡富岡町にピンクの長いトンネルができる。夜の森の桜並木。天明の飢饉(1782-1788)のあとに人の姿は消え、松の木が3本あるだけの原野だったこの地に移り住み、開拓して理想の村づくりを目指した半谷清壽が1901年(明治34)に植えた。その後、地域の人々に受け継がれ、今では約2.5㎞の両側に230本ほどのソメイヨシノが立ち並んでいる。
2011年、東京電力の福島第一原発で事故が起き、富岡町も全町避難を余儀なくされた。桜並木は原発から約7km。間もなく桜の時期が訪れ、多くの人が人知れず咲いているであろう並木を思った。事故から4年が経つ今も、大部分は人の出入りを原則禁止するバリケードのなかにある。
並木の一部がある地域は一昨年から、昼間だけ自由に行き来できるようになった。けれど線量は高く、桜の時期には「車中から眺めるように」と、注意を促す看板が立てられる。それでも、ふるさとの自慢の桜並木の下に立ちたいのだろう。少なからぬ人がゆっくり桜のトンネルを歩き、静かに再会を喜び合う。
避難生活はまだまだ続きそう。でも故郷では桜並木が毎年、ひたむきに花を咲かせながら、どっしり腰をすえて留守をまもっている。2月にバリケード内側の桜並木の除染が始まった。いつ、その下を歩けるようになるのかわからないが、事故から5年目のささやかな希望に思えてならない。
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