販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
『フェデル・ネルクル』販売者 セラード・アルセルビッツ
社会の間にある溝を埋めたい
雑誌に付けられる本当の値段はありません
『フェデル・ネルクル』と出合ったのはもう19年も前のことです。路上をさまよい歩いていて路面電車に乗ったら、年老いたホームレスの男性が私に近づいてきて、手に持っている雑誌を見せてくれたんです。これは良さそうだぞ、やってみようかと自分に問いかけました。路上生活をして2年が過ぎていました。
実はこの雑誌をこっそり盗んだこともあったんです。それでも販売者として受け入れてくれて、ついには優秀販売者として何度か表彰もしてくれました。賞をもらうのはいつも気分が良いものです。私は長らく営業職で働いていましたから、良い商品への嗅覚を持っています。
今でも登録上はホームレスのままですが、それは家の所有者になれないというだけです。路上生活からは脱し、手狭ではありますが、かわいい妻とアパートの8階に住んでいます。でも日々の状況は厳しさを増してきましたね。戦争にインフレ、それにコロナ禍。現代文明は過酷すぎます。私たちはいつの日か、自然へ帰ることになるでしょう。
今のハンガリー社会は、誰もが互いにいがみ合っているように見えます。そのような中でこのストリートペーパーは、自分が世の中の役に立っている気持ちにさせてくれます。雑誌を販売することを通じて、人々の文化的な生活に貢献していると考えてもいいのではないでしょうか。そう思えるからこそ、私はこの雑誌の販売に携わっているのだと思います。
社会の間にある溝を埋めたいのです。たとえ社会の底辺にいたとしても、何か楽しい、有益で質の良いものを社会にもたらすことができると信じています。
15年もの間、私から雑誌を買ってくださるやさしい女性がいます。いつも「セラード、会えてうれしいわ。最新号をくれない?」と声をかけてくれます。本当に天使のようです。
この雑誌によって得たものは計り知れません。尊厳や前に進む機会を与えてくれました。ホームレス状態にある人々を社会で包摂したいと思うなら、愛や思いやりの気持ちを持って接っしてほしいです。そうすれば、その人は自分自身が世の役に立つ人間だと思うことができるでしょう。この雑誌とかかわってから私が得たのも、そのような気持ちでした。
販売場所に立っていても、誰も私を追い出したりしません。私の価値を認めてくれます。見かけで判断せずに、中身を見てくれるのです。
多くの人が「この雑誌はいくら?」と聞きます。でも、雑誌に付けられる本当の値段はありません。その価値は無限大ですから。
『Fedél Nélkül』
1冊の値段/仕入れ値100フォリント、販売額は寄付制
(仕入れ値を超える利益分が販売者の収入に)
発行頻度/隔週
販売場所/ブダペストほか
Text: Lilla Rothmann, Fedél Nélkül/INSP/編集部
Photo: Gábor Csanádi
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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