販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
『ビッグイシュー韓国版』チョン・ソンウさん
かつては靴メーカーを経営、通貨危機で路上へ
販売を始め、お酒について考える時間が減った
チョン・ソンウはソウル地下鉄3号線の駅前で『ビッグイシュー韓国版』を販売している。売り場の付近は(旧大統領府)を訪れる観光客や、その裏にそびえるへ向かう人々でいつも賑わっている。
「最近は人通りが増えましたね。待ち合わせの合間に雑誌を購入する方もいますが、売り上げのほとんどはお得意さんによるものです」
ソンウがホームレス状態になったのは、アルコール依存症がおもな原因だった。「2013年から約5年間、リハビリ施設に入所していました。きっかけは路上で血を吐き意識を失ったこと。当時50歳になったばかりでしたが、身体はぼろぼろでした」
「それからはまったく飲んでいませんが、今でもお酒のことを考えてしまう時があります。でもいったん飲酒を再開すると事態が悪化するのはわかっているので、注意しているんです。かつて断酒を試みたものの、再び手をつけてしまった結果が路上での吐血でしたから」
ソンウは現在、考試院(※1)で暮らしている。「トイレやシャワーも自分専用のものが使えるので、公的に提供される施設に入居するより快適です。また私は時々、胸に強い痛みを感じて失神することがありますが、ここではドアを叩けば従業員の方などが駆けつけてくださるので助かっています」
アルコール依存症のきっかけとなったのは、1997年のアジア通貨危機(※2)だった。「それまでは小さな靴メーカーを営んでいました。通貨危機の初期にはまだ製造を続けていたのですが、次第に販路が縮小していきました」
「工場の地下で段ボールを敷いて寝るようになり、45歳を迎えた年に職場へ通うのを止め、自宅で酒を飲んで過ごす日々が始まりました。そして考試院へと引っ越して以来、ここで暮らしています」
以前は電車で30分ほど離れた駅で販売をしていたソンウ。彼は多くのお得意さんたちとのつながりを心から楽しんでいる。「安国駅に売り場を移してからも、わざわざ会いに来てくれたり、手紙を書いてくれたり……お客さんとの交流が、ビッグイシューの販売における醍醐味ですね」
お客さんが十分な小銭を持ち合わせていない時、ソンウは「足りない分は次回でいいですよ」と伝える。そう言うと、誰もが後で必ず不足分を支払いに訪れてくれるそうだ。「世知がらい世の中ですが、誠実な人々がいると知り、うれしく思います」
ソンウはこれまでの努力が、少しずつ実り始めているようだと話す。「販売の仕事があるおかげで、『明日のために早く寝よう』と意識するようになりました。思い悩んだりお酒について考えたりする時間が減ったことが、私には何よりも大きなメリットです」
※1 大学入試や公務員試験の受験者が勉強を行うための、小部屋のある安価な宿泊施設。
※2 タイを中心に始まった、東アジアや東南アジア各国における通貨の急激な下落現象。
『ビッグイシュー韓国版』
1冊の値段/7000ウォン(そのうち3500ウォンが販売者の収入に)
発行頻度/隔週
販売場所/ソウル、プサン
Text:An Deok-hee, The Big Issue Korea/INSP
Photo: Lee Sang-hee
Photo: sanga park/Alamy Stock Photo
(Photoキャプション)
「部屋で過ごすよりも、お客さんとの会話が楽しい」と語るチョン・ソンウ
北岳山の麓に立つ青瓦台
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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