販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
米国・シアトル『リアル・チェンジ』販売者 ローズ・ガスコン
フィリピン出身、新聞販売で得られた友人
もう、ひとりでないことが一番うれしい
ローズ・ガスコンが仕入れのために『リアル・チェンジ』の事務所を訪れるのは、決まって週に一度、水曜日の朝だ。そして、販売場所へ向かう前に、どれほどスタッフたちのことを愛しているかを説く。仕事に対するひたむきさはみんなの知るところで、昨年リアル・チェンジの〝最優秀販売者〟に選ばれた(※)。「リアル・チェンジには本当に助けられてきました」とガスコンは言う。
フィリピン出身で、2011年に米国に移住したガスコン。当初は家族と暮らしていたが、後にホームレス状態に陥った。3ヵ月もの間、路上生活を送った当時のことを「とても怖い経験でした」と話す。現在はワシントン州イサクアで、アパートを借りている。
リアル・チェンジで働く前は、知り合いもおらずとても孤立していたと言う。だが、販売を始めると状況が変わり始めた。ガスコンにとって、この新聞を販売することは単に収入を得るだけではなく、人とのつながりを取り戻すことでもあった。
「当初は新聞販売の仕事を恥ずかしく思ったこともありました」と打ち明ける。「でも、気づいたんです、この仕事を通して収入と多くの友人を得ることができたってことに。もう、ひとりではないということが一番うれしいですね」
ガスコンの販売場所は、話題のレストランやクラフトビール工房などが点在するシアトル・バラード地区のスーパー「トレーダー・ジョーズ」前だ。彼女の姿が見えないと、お得意さんたちから連絡が来るという。「お客さんたちは本当にいい人ばかりで、時には泊まる場所を提供してくれる人もいます。古くからの友人のような存在ですね」
14年に知り合いを通してリアル・チェンジの存在を知ったガスコンは、今ではこの新聞の販売と、小売店の店員という2つの職を掛け持ちしている。しかし、コロナ禍で生活は一変し、新聞販売から得られる収入は減った。そして何より、お客さんとの交流がなくなり、孤立感が増したという。
それでも、コロナに罹患しなかっただけでもありがたいと思っている。また、一時的なものとはいえ、給付金も得ることができた。
今では米国の市民権を得て、アパートを借りることもできるようになり、健康にも気をつけているというガスコン。「病院に行くこともないですね。調子が悪くてもアスピリン(解熱鎮痛剤)に頼るくらいです」
パンデミック前は毎週120部売れていたが、今では70部に落ちてしまった。ワクチン接種は終えたものの、まだ身体的な接触を避けなければならないのが心苦しい。「いつか事態が好転して、またお客さんたちとハグを交わすことができる日を心待ちにしています」
※ 仲間の販売者の投票によって決まる。
Text:Samira George, Real Change/INSP
Photos: Samira George
『Real Change』
1冊の値段/2ドル
(そのうち1ドル40セントが販売者の収入に)
発行頻度/週刊
販売場所/ワシントン州シアトル
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
この記事が掲載されている BIG ISSUE

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