販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

『ビッグイシュー英国版』販売者 リチャード・コテリル

都市封鎖で決意、英国縦断の歩き旅に挑戦
歩くことは不安を和らげ、自信を与えてくれる

『ビッグイシュー英国版』販売者 リチャード・コテリル

5月26日、『ビッグイシュー英国版』販売者のリチャード・コテリルは英国縦断の歩き旅に出発した。出発地点は、北部スコットランドのジョン・オ・グローツ。10週間かけて、徒歩でイングランド最南端を目指す。
 2年前に同誌の販売を始めたコテリルは、イングランド中部のウルヴァーハンプトン出身だ。10代後半の頃には金融街で投資アナリストの見習いとして働いたこともあるが、性に合わず、以降トラック運転手や庭師などで生計を立ててきた。
 2年半前にはガーデニングの仕事を求めて南部コーンウォールに来たものの、思うように職を得られなかったという。貯金が尽きた時にビッグイシューのことを知り、販売を始めた。
 だが、コロナ禍の都市封鎖には苦
しめられたと語る。「ほとんど車中で暮らしていたかな。テントがあるのでいろんなところに寝泊まりはできたけど、安定した住環境を得るにはとても難しい時期だった」とコテリル。
 スペイン、モロッコ、ネパールなどでトレッキングガイドの経験もあるコテリルにとって、歩くことは長年の娯楽であり、情熱でもあった。「数年前から英国を縦断してみたいと思っていたんだけど、3ヵ月半の都市封鎖を経験している間に考えたんだ。都市封鎖が解除されればそれが『その時』なんじゃないかって」
「それに都市封鎖の間は、何かに挑戦することを止められているような気がしていた。でも、歩くことで不安が和らぎ、自信を取り戻すことができたんだ。歩き旅を通して得られる心身の強さは、安定した生活に向けてスタートを切るためのスプリングボードになるんじゃないかと思う」
 都市封鎖が明けてから売り場に戻った彼は、販売で得た収入と手持ちの貴重品を売り払ったお金で、今回の旅費を確保した。「一日10ポンドもあればやっていけるからね。毎晩テントを張るし、自炊するからそんなにお金はかからないんだよ。ブーツがもつかどうかは気がかりだけど、もしダメになったら旅の途上で雑誌を販売して賄おうと思う」
「人生は複雑だけど、歩くというのはとてもシンプルなこと。今回の旅では、そのシンプルさを思う存分楽しみたい」とコテリルは言う。歩くことを通じて考えたことや心の変化を日々書き留めていて、数年後にまとめ上げることも目標だ。
 SNSは使っていないが、多くのお客さんから旅の途中も連絡を取りたいと電話番号を聞かれた。コテリルは、この旅を実現させてくれた多くの人たちに感謝したいという。「ここ数ヵ月は大変なことも多かったけど、ポール、レオナ、ダニエラ……本当にたくさんの人に助けられたよ。旅から帰ってきたら、また販売場所でお会いしましょう」

Text:Sarah Reid, The Big Issue UK/八鍬加容子

Photo: Emily Fleur Photography

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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