販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

ドイツ・ハノーファー 『アスファルト』販売者 レギーナ

ロマとして差別を受け、チェコに亡命 この仕事のおかげで、街が居心地よくなった

ドイツ・ハノーファー 『アスファルト』販売者 レギーナ

レギーナ(55歳)はドイツに暮らして5年、ハノーファーに来てやっと仕事が見つかったという。清掃の仕事をしながら、ストリートペーパー『アスファルト』の販売者となり3年が過ぎた。「その前にいたケルンでは仕事がまったく見つからなかったんです。ここでは清掃の仕事に就けましたが、フルタイムではないので希望するほど長時間働くことができません」とレギーナは話す。
出身はルーマニアだが、ドイツに来る前は20年近くチェコで家族とともに暮らしていた。「ルーマニアでの生活は厳しいもので、狭いアパートに大勢で住んでいました。7人の姉妹と5人の兄弟がいたので、私を含めると13人です。父は私が7歳の時に亡くなり、母は20年前に亡くなりました。私たちの民族はロマでありシンティ(※)ですが、ルーマニアでは私たちに対する差別がとても根深いのです。その後私は、チェコで政治的亡命者として認められて移住しました。チェコとドイツでは差別を受けることがなくなったので、本当によかったです」
チェコでは第2の都市ブルノで、ロマ文化ミュージアムのガイドとして10年間働いた。「とても好きな街でしたし、チェコ語は完璧に話せます。ガイドの仕事ではさまざまな人と触れ合って話すことができたので毎日とても楽しかった。上司も私の働きぶりを喜んでいました。ただ、生活するのに困るほど給料が少なく、辞めざるを得ませんでした」
チェコで育て上げた2人の息子と双子の娘たちは自立し、ルーマニアやチェコ、ドイツのケルンで暮らしている。「孫も7人いるんです。会いに行きたいのですが、お金がなくて残念ながらあまり会っていません。でも手紙を書いたり、電話をしたりはしています」と言う。「25年連れ添った夫もいましたが、03年に別れてひとりになりました」
「今はハノーファーで女性用施設に住んでいて、イラクからきた女性と部屋をシェアしています。平穏に暮らせていてとてもいいですよ。これまでにいたルームメイトは薬物をやったりお酒を飲んだりしていて、私はそういうことには縁がないので大変でした。いつかは、小さくても自分でアパートを借りて暮らしたいです」
ここに来てまだ友達はできていないと言うが、「『アスファルト』を買いに来てくれる人たちが、私にとって大事な人です」とレギーナは話す。「雑誌の販売は収入のためだけでなく、私にとってなくてはならない生活の一部。販売者をしていなかったら、人恋しくて、悲しくなってしまうでしょう。販売場所に立つと人々が優しく接してくれるので、それが本当にうれしいんです!」。この仕事をしているおかげで、ハノーファーが「とても居心地がよい場所」になったという。常連客との会話が日々の楽しみとなり、今はドイツ語を早く習得できるよう努力しているところだ。
「私は、自分のことはもちろん、すべての人、すべての物事は神様が決めると思っています。今日が雨でも明日は晴れる。私にとって信仰心を持つのはとても大事なこと。日々を一所懸命生きて、神様の導きに従うのみです」

(Svea Kohl, Asphalt / INSP/ 編集部)

※ インドやペルシアを起源とするロマニ系の人々である「ロマ」。その子孫で15世紀頃にドイツ語圏に移住したといわれる少数民族「シンティ」のこと。ドイツには17~30万人のロマが住んでいるとみられるが、市民権がなく、ホームレスまたは不安定な状態にある人がほとんど。

『アスファルト(Asphalt)』
●1冊の値段/2.2ユーロ、そのうち1.1ユーロが販売者の収入に
●発行頻度/月刊 
●販売場所/ハノーファーなどニーダーザクセン州の都市

(写真クレジット)
Photos: Svea Kohl

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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