販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

カナダ『リティネレール』販売者 ヤニック

45歳の今、性別適合手術を決心。男性として生きることを心待ちにしている

カナダ『リティネレール』販売者 ヤニック

モントリオール市ロングイユ地区、ジャック・フェロン図書館の前でストリートペーパー『リティネレール』を販売しているアニーは、最近名前を“ヤニック”に変えた。そのこともあって、よく常連のお客さんたちから受ける質問があるという。「どうして45歳の今なんですか?」――女性から男性への性別適合手術を受ける決心をしたことについてだ。長年自分の身体と心に違和感のあったヤニックはこう話す。「私が性別を変えようとしていることを伝えて仰天するような人はいませんでした。むしろほとんどの人からは、なぜずっと躊躇していたのかと驚かれました」
ヤニックは特別支援教育を受けて育った。アルコール依存症により仕事を続けられなくなり、2016年に販売者として働き始めたが、長らく複数の精神疾患に苦しんでいた。そんな中、昨年の春にうつ病が悪化し、セラピーに通い始めたことで「性別を変えることこそが自分にとって本当に切実な問題なのだと悟りました。セラピストと話す中で、忍耐強く自分と向き合い、自分を受け入れ、自分について決断できるようになったのです」。
「性別を変えることは、この先数年をかけてもう一度思春期の時間を経るようなもの。この過程によって、自分の中で間違っていたものを正しくすることができると思っています。身体的な変化だけではなくて、自分の社会的な役割を定義し直すなど、複雑な経験をするはずです」
だが、これは自分だけの問題ではなく、周囲の人にも影響を与えることだとヤニックは考えている。「もちろん柔軟に対応してもらえない人もいると思いますが、名前の呼び方を変えてくれたお客さんなど、努力してくれている人もいます」。最近法改正があったカナダでは、性別を変更するために手術は必須要件ではなく「宣誓書」を提出すれば認められるようになった。そんな中で手術を決めたのは「ひげを生やして胸をなくしてしまえば、周りの理解が早く進むだろうなと考えるからです」。恋愛対象については「これからも女性に惹かれるだろうと思っています」と話した。
自分がどう変わったのかについては「喜んで話したい」と言うヤニック。ブログを開設し、自身の経験について積極的に発信している。「私のようなトランスの話題についてフランス語で書かれた情報は多くないですし、フランス語で書かれていたとしても、たいていはヨーロッパの事情についてです。さらに言えば、女性から男性への移行についての役立つ情報となると、もっと限られてきます。人から質問を受けるのはうれしいことなんです。自分について改めて考える機会になりますし、ブログの題材にもなりますから」
今後数週間をかけて、ヤニックの身体には変化が訪れる。「これから『男性として生きること』に期待感をもっています。自分の心と頭と身体とが一致する感覚を得るということですから。男性としてのアイデンティティを確立できることを心待ちにしています」

(Camille Teste, L’Itinéraire / INSP / 編集部)

※ この記事は性別適合手術についてのインタビュー記事をもとに再構成しました。

『リティネレール(L’Itinéraire)』
●1冊の値段/3カナダドル、そのうち1.5ドルが販売者の収入に 
●発行回数/月2回刊 
●販売場所/ケベック州モントリオール

(人物写真クレジット)
Photo: Milton Fernandes

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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