販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

カナダ『メガフォン』 誌 販売者 ジェラルド・“スパイク”・ピーチィ

路上の仲間のために、市議会議員選挙に立候補 「自分には発言権がない」と思っている人の声になりたい

カナダ『メガフォン』 誌 販売者  ジェラルド・“スパイク”・ピーチィ

今年10月、カナダ・バンクーバー市議会議員選挙に立候補したストリートペーパー販売者がいる。雑誌の名のごとく、スパイクは大きなメガフォンを持つかのように有権者に訴えた――路上に住む「大切な仲間」の権利のために。
「私は、『誰もが自分なりの最高の人生を送れるまちづくり』が重要視されていないことに悲しむ一人の人間です。この街では多くの人が『自分の意見なんてたいして重要じゃない』と感じているようですが、市政を担う人々は全員の意見を大切にすべきで、私は『自分には発言権がない』と思っている人の声になりたいのです」
スパイクは路上生活の経験を総動員し、市の課題と公約をまとめ上げた。筆頭に掲げたのは、ホームレスと住宅問題。裕福な人々が住宅の需要を押し上げ、その価格は何百万ドルにまで高騰している。中産階級はより安価な選択肢を求めて街を去り、貧困に苦しむ人はさらに貧しくなりつつある。
「市民は安全な住まいや住宅援助の選択肢を持って当然です。住むのに適した仮設住宅や、安全・清潔で手頃な価格の住居がもっと必要なのです。たとえば、『Airbnb(※)』の部屋を賃貸物件として使用できるかもしれません。そして、査定額30万カナダドル(約2600万円)以上の家を所有する人は、ホームレスの人を減らすための政策に少しばかり多くの税金を収めてもらえないでしょうか」
スパイクは路上の治安改善と雇用問題についても提案した。ごみや悪臭で汚れたストリートには、行き場を失くした人々がたむろしている。「こういう人たちの多くは、通りを清掃する有給の仕事を与えられたら大いに喜び、働くことでしょう。自分自身のコミュニティをより良い場所にできるような仕事を、彼らに提供してはどうでしょうか。誰もがもっと安全だと感じられるように、地域に貢献する機会をすべての人につくることができれば、警察や他人への危険行為に発展するような社会不安は減るでしょう」
路上で生活する人々の声を政治に反映させるためには、選挙制度の改革も必要だと話した。「ストリートで生きていくのに必死な人々、身分証明書や定住所のない人々、現行システムの中で力を奪われた人々――彼らは選挙に行かず、多くの場合、行けないのです。現状のまま、つまり同じグループの人によっていつも同じ人が選ばれる状態のままであれば、政治は変わりません」
「投票所に足を運べない人に投票する機会を与えるのは、私たちの義務です。私がこれまで耳にした中で優れた提案のひとつは、クリニックや薬局で期日前投票の制度を設け、薬剤師、医師、看護師などが投票者の身分保証人を務めるというものです。全員がすべての選挙で簡単に投票でき、自分だって変化を起こせるのだと思えるようにする必要があるのです」
10月20日に行われた選挙で、スパイクは惜しくも当選には至らなかった。しかし、路上から立ち上がり、「声なき声」に寄り添った立候補者が存在したこと自体が、バンクーバーの大きな変化となったにちがいない。

(Gerald “Spike” Peachey, Megaphone / INSP / 編集部) 
※ 「エアービーアンドビー」は、個人が空き部屋などを提供する民泊のシステム。

写真キャプション:バンクーバーの街並み

Photo: Paula Carlson

『メガフォン(Megaphone)』
●1冊の値段/2カナダドル(そのうち1.25カナダドルが販売者の収入に)
●販売回数/月刊 ●販売場所/バンクーバー、ヴィクトリア

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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