販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

米国『リアル・チェンジ』誌 販売者 ジョン・バーゲン

キャンピングカーで、スポケーンの街に帰りたい。 「いつだって希望はある。こつこつがんばるだけさ」

米国『リアル・チェンジ』誌 販売者 ジョン・バーゲン

ジョン・バーゲンは、あと1年で年金がもらえるようになるが、その前に生活を変えたいと思っている。安いキャンピングカーを買い、シェルターを出て、ワシントン州スポケーンに戻り、同じくホームレスの息子の路上脱出を助けたいのだ。
ワシントン州ブレマートン生まれ、ピュアラップ育ちのジョンにとって、これまでの人生は楽なものではなかった。父親がブレマートンの造船所で働いていたのだが、精神病院に収容されると生活は困窮し、家族はバラバラに。7人の子どもたちはそれぞれ里親のもとに送られ、ジョンはピュアラップに移り住み、そこで高校に通った。以来ジョンはきょうだいの誰とも会っていない。
18歳になり、独り立ちしようと思ったジョンは、仕事を始め、懸命に働いた。それから40年、便利屋をしながらワシントン州を転々とした。ホームレスになる前の生活については語るほどのことはない。18歳の時からずっと路上にいるからだ。
1ヵ所で数年ずつ過ごす暮らしは、ジョンにとって悪いものではなかった。路上にいることで人生について多くのことを学びもした。「70、80年代は楽しかったよ。いい時代だった。ヒッチハイクも簡単だったし。あの頃はみんなが今よりもずっと親切だったんだ」
アパートの修繕の仕事をしていれば、食べるには困らなかった。ペンキ塗りをしたり、錠を取りつけたり、壁や扉、窓の修理をしたり、何でもやった。
息子をめぐって元妻との関係が修復不可能になると、ジョンは再スタートのためにシアトルへ引っ越した。それまでは仕事仲間が1人いて、一緒にあちこちを回っていたのだが、シアトルの方が仕事の口が多いと思ったのだ。「ホームレスの身だと、シアトルよりスポケーンの方がずっと寒いしね」
8年前に飲酒運転で捕まるまで、仕事が途切れることはなかった。だが、免許を失ったことで、仕事を見つけるのが難しくなった。たいていのジョンの仕事には、運転免許が必要だからだ。
罰金を支払わなかったせいで、債権回収業者(※)の取り立てにあい、さらに面倒なことにもなっている。自分のキャンピングカーでスポケーンに帰るのがジョンの目標だが、運転免許を取り戻すのに4千ドルを支払う必要がある。さらに、キャンピングカーは3千ドルから3千5百ドルはする。貯金に励んではいるが、最低限の生活費も必要だ。
6年前、生活のために『リアル・チェンジ』の販売者になったが、時間がある時はたいてい図書館のパソコンを使い、広告サイトで修繕の仕事を探している。『リアル・チェンジ』の販売はとりあえず始めるにはいいが、ジョンは身体を動かす仕事の方が好きなのだ。
修繕の仕事に必要な道具も車もないので、仕事はなかなか見つからない。もっぱら探すのは、広告主が道具を用意してくれる溶接や修理の仕事だ。しかし、前科があって無免許のジョンが応募できる仕事はそう多くない。不景気な昨今ではなおさらだ。
「年々、状況は厳しくなるばかりだ。希望を失いそうになるよ。ずっとホームレスでいるせいで、すっかり悪循環にはまってしまった。路上に長くいるほど、この悪循環を断つのは難しくなる」
「トランプ大統領は福祉予算をカットするだろうし、どんなことになるやら。もっとひどいことになるのは間違いない。今よりも窃盗が増えるだろうね。誰だって、なんとかして生きのびるしかないんだから」
だが、弱気になりつつも、ジョンはこうつけ加えた。「あきらめたらダメだってことはわかってる」。そして、職歴にできそうな仕事を探しつづけるつもりだ。
「いつだって自分より恵まれない人がいる。素寒貧の時でも、自分は恵まれているってことを忘れちゃいけない。いつだって希望はある。こつこつがんばるだけさ」

(Yemas Ly, Real Change/編集部)

※米国では、交通違反の罰金を払わないでいると、債権として民間の回収業者がひきとり、罰金・延滞料の支払い督促を行う。

『リアル・チェンジ』
●1冊の値段/2ドルで、そのうち1ドル40セントが販売者の収入に
●発行回数/週刊
●販売場所/シアトル

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

今月の人一覧