販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

米国・シカゴ『ストリート・ワイズ』販売者 マービン

どんなことが起きようとも、僕には仲間がいる。 大好きなこの仕事で経済的な自立を果たしたい

米国・シカゴ『ストリート・ワイズ』販売者 マービン

僕が生まれ育ったのは、シカゴ西部にある通称「K-タウン」。Kの頭文字で始まるストリートが多いところです。『ストリート・ワイズ』の販売を始めてまだ半年ほどだけど、今は中心街にある2ヵ所の交差点で働いています。日々、さまざまな背景を持った多様な人たちと交流できるから、どちらの場所も気に入っているよ。
マディソン通りの交差点は、予測できないところが楽しいんです。一週間の中で同じ人々に出会うことがなくって。一方モンロー通りの交差点は、通勤の人が多いから頻繁に顔を合わせる。マディソンで出会う人たちの多様さも好きだけど、モンローでは毎日、同じ人たちを見ているから自然と人間関係ができます。これは販売を続ける上で最も重要な要素だと僕は思う。同じ場所に立ち続けることで、僕はお客さんに慣れるし、お客さんも僕に慣れて信頼関係ができるから。でも、今は二つの場所で時間を過ごすことで、両方の世界のいいとこ取りを体験できているんです。
大抵いつも楽しく仕事をしてるけど、今、最大の難題は僕たちが販売すると怒る物乞い(※)の人たちとの関係かな。みんなにとってより平和的な環境をつくりたいから、彼らとの言い争いは最小限に抑えようとしてます。“僕たち販売者は自分たちが路上を所有しているわけではない”という自覚を持つことが大切で、だからこそ礼儀と慎みを持ってあらゆる人と接することが必要なんじゃないかな。
実は販売を始めた当初は、あまりやる気がなかったんです。でもジョンという販売者に出会い刺激をもらったことで、今では最高の販売者になりたいと思っています。彼の言ったあるひと言が、ここ数ヵ月ずっと頭の中に残ってます。「努力した分だけ成果は現れる」って。毎回、販売の仕事に出るたび、このことを忘れないようにしています。
自分が学んできたコミュニケーション能力に加え、今は販売者として服装と礼儀の大切さも重視するようになりました。時に人から「ちゃんとした仕事を探しなよ」と言われることもあるけど、そういう言葉には惑わされないようにしてます。なぜなら、僕はこの仕事が大好きだから。僕は『ストリート・ワイズ』の仕事を通して、経済的な自立を果たしたい。他の人たちの言うことに気を取られず、日々努力して目標を見失わないようにしてるよ。
販売をしてない時は、40歳以上が参加するバスケットボール・リーグに参加して楽しんだり、読書をしたりしています。今まで500冊以上の本を読んできました。読書が好きなのはページをめくることでまったく異なる世界に誘われるから。今でも僕の愛読書であり、また最初に読書のおもしろさに気づかせてくれたのは、アレックス・ヘイリーの『マルコムX自伝』。それと法廷ドラマも好き。僕は生活の中でのこういった小さな幸せに感謝してます。なぜなら自分自身が解放されるし、より前向きで責任のある生き方へ進む、手助けになってくれるから。
将来のことはわからないけど、自分を最大限に活かして生きるため、不確実さを受け入れることはさして苦じゃない。僕は『ストリート・ワイズ』のみんなの力を借りながら、今後も成長し、自分の周囲に起こる変化にも対応できるはずだと信じてる。どんなことが起きようとも、僕には仲間がいるからね!

(写真クレジット)
©Street Wise

(Gregory Boudreaux/Street Wise, www.INSP.)
※米国の路上では、通行人に金銭などを求める人々も座っており、時に場所をめぐる争いが発生する。
『ストリート・ワイズ』
●1冊の値段/2ドル(約200円)で、そのうち1ドル10セントが販売者の収入に。
●販売回数/週刊
●販売場所/イリノイ州シカゴ

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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