販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

『ビッグイシュー・オーストラリア』販売者 アラン・C

依存症から回復。服役を終え、ビッグイシュー販売へ 歌うと幸せな気持ちに ここ何年かはいい出来事が続いている

『ビッグイシュー・オーストラリア』販売者 アラン・C

アラン・Cは『ビッグイシュー・オーストラリア』で、20年のキャリアをもつベテラン販売者。今はメルボルンの中心部、映画館や劇場が集まるバーク通りの500番地付近が彼の持ち場だ。
「私はウィラジュリ族の出なんだ(※)。ニューサウスウェールズ州フィッツロイのウィラジュリ・カントリーで生まれた。育ったのはメルボルン郊外のハイデルバーグ・ウェスト。そこはニューヨークのブロンクスみたいな下町だったよ」
そんなアランは10代の時、オーストラリア各地を巡る旅に出た。野宿をしながらの放浪だった。「大陸中央のアリス・スプリングスや北部のノーザン・テリトリーにも行ったし、西オーストラリア州、南オーストラリア州もぜんぶ回ったよ。4歳の頃から身体的・性的・精神的なさまざまな虐待を受けていたから、そうした問題から逃げ出して、自分の居場所を探そうとしていたんだ」
アルコール依存症は、アボリジニの人々を苦しめる深刻な社会問題の一つだが、アランも若い頃からアルコール依存に陥っていたと言う。それがアリス・スプリングスに滞在した時、治療を受けることができた。
「オーストラリア大陸の真ん中は、アルコールを抜くのにぴったりの場所だった! そこで大勢の素晴らしい人たちに出会ったよ。今も元気でいてくれるといいけれど。アボリジニの長老たちが私の面倒を見て、依存症を治してくれたんだ。その時、私は27歳だった。治療が終わってメルボルンに帰る時、私の世話役をしてくれていた人が、帰ってはダメだとバスを止めようとした。メルボルンで何か悪いことが起きる夢を見たと言って。結局、彼は正しかった。私はその後、刑務所に入ることになったから」
シドニーのロングベイ刑務所と、メルボルンのペントリッジ刑務所で服役したアラン。刑期を終えたのは93年の3月27日のことだった。今、55歳になったアランは『ビッグイシュー・オーストラリア』の創刊間もない20年前から販売者として街角に立っている。
「もしビッグイシューを売っていなかったら、他にやることもなく、間違いなくまた刑務所に入っていただろう。もしくは自分で命を絶っていたかもしれない」
「ここ何年かは、いい出来事が続いている。16年前にハンクという親友を得たことも大きいと思う。彼も私も母親を亡くしているから、お互いの気持ちがわかるんだ。ハンクとは一緒に『ジャンバナ』という合唱グループをやっていた。グループ名は『みんなが集まる場所』という意味で、他に8人のメンバーがいた。『ロック・アゲインスト・レイシズム(人種差別に対抗するロック)』という音楽フェスに出て、アーチー・ローチやカッチャ・エドワーズ、ダン・スルタンらアボリジニのミュージシャンと一緒に歌ったし、他にも『アースコア』など多くのチャリティ・イベントに出演した。本当に素晴らしい思い出だ」
「今もよく歌ってる。歌うと幸せな気持ちになれる。レナード・コーエンの『ハレルヤ』が特に好きだ。アーンティ・ルビー・ハンターの『ダウン・シティ・ストリーツ』、カッチャ・エドワーズの『スタンド・ストロング』も。人間の真実、深い心情を歌った曲が大好きなんだ」


(Anastasia Safioleas/The Big Issue Australia)

※先住民族アボリジニの一部族。南東部のニューサウスウェールズ州で最大のグループ。

『ビッグイシュー・オーストラリア』
●1冊の値段/7ドル(約600円)で、そのうち3.5ドルが販売者の収入に。
●販売回数/隔週
●販売場所/シドニー、メルボルンはじめ、全土の主要都市


(写真クレジット)
Photo:James Braund

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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