販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

『ビッグイシュー南アフリカ』販売者 ジェイコエフ・ギャラント

以前は、ほしい物があれば盗んだ。今は自分に誇りをもてるようになった

『ビッグイシュー南アフリカ』販売者 ジェイコエフ・ギャラント

 ケープタウンの街角に立つジェイコエフ・ギャラントは、12年前、犯罪者の人生に背を向け、『ビッグイシュー南アフリカ』の販売者になった。犯罪歴のために仕事を見つけるのは容易ではなかった。しかし、ストリート・ペーパーの仕事についてからは、人に受け入れられ、さまざまな支援を得ることができたと彼は語っている。
「私が自分の人生を変えようと決めたのは、その時の私が進んでいた方向が気に入らなかったからです。私は人生のほとんどを、基本的にプロの泥棒として生きてきました。他人の持ち物に対して何ら敬意を払うことはなく、警察に捕まることも気にならなかったんです。刑務所での生活がどんなものか、すでに経験済みでしたから」
 しかし何度目かの服役中、他の受刑者の死を目にしたことが、ギャラントの転機となった。
「あんなふうにして死にたくないと思ったんです。家族に私のことで失望させたくないとも考えました。しかし、心に決めるのはたやすくても、実際に生き方を変えるのはとても困難なことでした」
 刑期を終え、刑務所から釈放されたギャラントは、することもなくケープタウンの通りに座り込んで日々を過ごしていた。その場所は偶然にも「ビッグイシュー南アフリカ」の事務所の近くだったが、そこで何が起こっているのかは知らなかったと言う。
 ある日、古い友人がそのビルから出てくるのを見かけた。彼はビッグイシューのことや、どうすれば販売者になれるかを教えてくれた。
「その後のことは、ご存じの通り」とギャラントは言う。「ビッグイシューの販売者をして、はや12年になります。もちろん他の仕事も見つけようとがんばったのですが、元犯罪者を雇おうという人は、とうとう現れませんでした」
 雑誌販売の仕事は気に入っていると言う。たくさんの素晴らしい人に出会えたし、売り上げのおかげで妻と子どもを養うこともできているからだ。
「今では、ほしい物を得るために働くという考え方が理解できます。以前は、ほしい物があればそれを盗みました。何かを手に入れるために働いたことがなかったからです。一所懸命に働くということの意味もわかりませんでした。その当時は、自分は自由だと思っていたけれど、本当は危険な考え方に囚われていたのですね」
 そして今、ギャラントはビッグイシューの販売者として自分に誇りを持てるようになった。他の職業と同じように、れっきとした仕事だからだ。他の人と同じように、毎日9時から17時まで働いて、2、3日ごとに事務所へ仕入れに行く。自分を向上させるため、会議やワークショップにも出席している。刑務所にいるよりはるかにいい暮らしだ。
 何年にもわたって、自分を支援し続けてくれているお客様たちに、感謝の意を表したい、とギャラントは言った。
「あなた方がくださったお金は、いただいた祝福のごく一部にすぎません。立ち止まり、私に笑いかけてくださった方々に感謝しています。路上にいる、まったくの見も知らぬ他人である私を助けてくださるみなさまのことを思い、私は毎日心の中に温かいものを感じているのです」

Photo: The Big Issue South Africa

『ビッグイシュー 南アフリカ』
●1冊の値段/25アフリカランド(約190円)で、そのうち12.5ランドが販売者の収入に。
●販売回数/月刊
●発行部数/1万3千部
●販売場所/ケープタウン

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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