販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

『シェディア』誌販売者 パナギオティス・トリアンタフィリデス

読み書きができるようになった今、雑誌の1ページ1ページを読まずにいられない。ここで僕は第二の家族を見つけた

『シェディア』誌販売者 パナギオティス・トリアンタフィリデス

 パナギオティス・トリアンタフィリデス(35歳)は、アテネで『シェディア』の販売を始めて、人生が一転した。
「僕はイスチアイア(ギリシャ北部のエヴィア島にある町)の出身で、アテネ近郊のアスプロピルゴスで長く暮らしてきた。僕はギリシャ・ロマで、そのためにいろいろと苦労してきた。若い時は父の商売の手伝いをしていたけれど、2008年に父が亡くなって、家族は打ちひしがれたんだ」
 彼の母はとても厳しい人で、彼には自由がなかったという。ある日ついに「家を出る。2度と帰らない」と宣言、彼の路上暮らしが始まった。
「若い頃に事故に遭い、すべての歯を失ったせいで就職は難しかった。僕の歯のない顔を見ると、人は薬物依存症者だと思うからね。レンティ地区という労働者の街にいた頃は、近隣の人たちと仲よくなり、犬の世話なんかを手伝っていたよ」
「その後、僕は町の中心へ移った。シンタグマ広場にあるキオスクの手伝いをすると、店主が食べ物と少しばかりのお金をくれた。でも友達がいなくて、とても寂しかった」
 そんなある日、赤いベストを着て雑誌を売っている男性に出会う。男性は彼にストリート・ペーパーとは何か、どういう仕組みになっているかを説明してくれたが、読み書きができない彼には、はっきりとは理解できなかった。
「僕は学校へ行ったことがないから。一度だけ母が僕を学校へ行かせたけれど、年上の子たちが僕を袋叩きにしてお金を奪ったので、二度と行かなかった」
「路上暮らしをするなかで、警官のグループに出会ったこともある。彼らは僕のことを気に入って、いろいろ助けてくれた。でも警官たちの考え方は極端で、僕も影響されて一時、亡命希望者や移民に敵意を持つようになった。幸い、すぐにそれが間違っていると気づいたけれどね」
 それからしばらくして、アテネの中心部を歩いていると、ある建物の外に大勢の人が集まっていることに気づいた。列に並んでいる人たちに聞くと、そこは民間の移民支援センターで、ギリシャ語のレッスンに出席するのだと教えてくれた。レッスンには、誰でも参加できるのだと。
「その時僕の心が、大きく動いたんだ。センターに通い、1対1で教わって、僕はすぐに読み書きができるようになった。そんなある日、また赤いベストを着た人を見た。今度はその雑誌、つまり『シェディア』に書かれていることを読んで、前よりもよく仕組みを理解することができた。事務所を訪ねると、スタッフの人たちがすべてを詳細に説明してくれた。僕は赤いベストを手渡され、最初の10冊を無料でもらった。最初の日、バッグを盗まれるという災難に遭ったけれど、僕はあきらめなかったよ」
「そして、周りの物事が急速に変わっていくのを感じた。きっとうまく行くと思った。2ヵ月後、僕はお金を貯めて小さなアパートを借りた。それからしばらくして、『シェディア』の人たちが僕の歯の治療に手を貸してくれたんだ」
 読み書きができるようになった今、彼は雑誌の1ページ1ページを読まずにはいられないと言う。「僕がどんなに変わったか、見ればわかると思う。いつの日か別の仕事を見つけたとしても、『シェディア』を離れたくない。必ずこの雑誌を売る時間を見つけたい。僕はここで第二の家族を見つけた。この家族に入れたことは幸運だったし、『シェディア』を誇りに思っているよ」

『シェディア』
1冊の値段/3ユーロ(約400円)で、そのうち1.5ユーロが販売者の収入に。
販売回数/月1回刊
発行部数/2万部
販売場所/アテネ、テッサロニキ他

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

この記事が掲載されている BIG ISSUE

278 号(2016/01/01発売) SOLD OUT

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