今月の人

米国『ストリート・ルーツ』元販売者 ウィリアム・ハワード

ストリート・ルーツの販売は楽しかった。僕は今、前に進んでいます

米国『ストリート・ルーツ』元販売者 ウィリアム・ハワード

「新聞を売って路上生活から抜け出し、生産的な市民になる」。オレゴン州ポートランドの『ストリート・ルーツ』の販売を始めた時、ウィリアム・ハワードはそう誓った。そして、まさしく彼が言った通りになった。
 金曜日、新号が出る日だ。ストリート・ルーツのオフィスでは、販売者たちが刷り上がったばかりの新聞の束を持って行き来している。みなが早く出発しようと急ぐ中で、ハワードだけは静かに座ってくつろいでいた。
 元販売者のハワードにとって、今日は週に2日の休日だ。NPO「セントラル・シティ事業」と、ポートランド・モールの管理会社と契約を結び、週に40時間、フルタイムで働いている。歩道清掃チームの一員として、ポートランド州立大学からグレイハウンドの駅までの五番街と六番街を受け持っている。
 ハワードにとって、ここまでの道のりは「たやすくはなかった」と言う。彼が今までこつこつとやってきたのは、有給の職業経験プログラムを受けるための要件を満たすことだ。セントラル・シティ事業を通じて、NPO「フリーギーク(※)」で80時間ボランティアをして実績を積み、自分用のコンピュータを手に入れ、自立プログラム第一部を修了した。清掃員としてトレーニングを重ねる今は、第二部の前半を終えたところだ。
 ハワードは昔、コックだった。カーニバルで働いたり、肉体労働をしていた時期もある。「料理は軍隊で習ったんです。何だって作れますよ」。今の清掃の仕事も気に入っているが、もっといろいろな経験を積みたいと思っており、セントラル・シティ事業の相談員と話し合っているという。
 今の仕事に就く前は、ストリート・ルーツの販売者として、三番街と南西ジェファーソン通りに立っていた。「販売を始めたおかげで、自分に誇りが持てるようになったし、僕がやっていることや努力していることに、周りの人が敬意を払ってくれるようになりました」と語る。
 そして販売をしながら住居の申し込みをし、6ヵ月後には、退役軍人向け一時的住居プログラムを通して、アパートの鍵を手に入れた。このプログラムにも必要条件があったが、彼はそのすべてを満たした。たとえばこんな条件だ。仕事を見つけること、6つの異なる住居入居希望者名簿に応募すること、銀行口座に入金すること。2年後には入居期限が切れるため、61歳のハワードは、シニア向け住宅に移りたいと考えている。
 路上を脱出できてホッとしている、と彼は言う。これからも、酒ともドラッグともきっぱりと縁を切ると決めている。「以前は自分の持ち物を引きずって歩き、誰にも盗まれないように、誰にも没収されないようにと、いつも気を張っていました。頭の上に屋根がある今は、そんなことはしなくてすみますから」
 販売者だった頃のお客さんに、ハワードからのメッセージがある。「みなさんに伝えてください。三番街とジェファーソン通りの角のスターバックスへ行く人、地方裁判所や連邦裁判所から出てくる人、スターバックスの隣のアパートの住人たち、郵便局の女性職員やみんなに。僕は今、アパートに住んでいると。顔を上げて、するべきことをしていると。ストリート・ルーツの販売はとても楽しかった。もう販売できなくて残念だけど、僕は前に進んでいます」

『ストリート・ルーツ』
1冊の値段/1ドル(約120円)で、そのうち75セント(約90円)が販売者の収入に。
販売回数/月2回刊
販売場所/オレゴン州ポートランド

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

『今月の人』が掲載されている BIG ISSUE

273 号(2015/10/15発売) SOLD OUT

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