販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

米国『ストリート・ルーツ』販売者、チャールズ・ヨスト

今、自分にあるのは今日だけ 1日1日真っ当に生き、前進していきたい

米国『ストリート・ルーツ』販売者、チャールズ・ヨスト

 チャールズは大体いつも高速道路でヒッチハイクをし、旅をしていた。彼は当時の自分のことを「放浪者」と呼んでいる。「大都市の路上は危険だから、たいていは避けるようにしていました。本当は安全な場所なんてどこにもないのかもしれませんが、私は小さい町のほうが居心地よかった。州間高速道路は私にとって駆け込み寺のような存在でした。旅がしたくなったらグレイハウンドの長距離バスに乗る感覚で、私は親指を立て、乗せてくれる車を探せばよかったのです」
 2000年の春にポートランドに着いた彼は、ストリート・ペーパー『ストリート・ルーツ』を販売し、十分なお金が貯まるとすぐに都市を出て、美しいオレゴン沿岸部で夏を過ごした。そして、それがしだいに彼の年間の儀式になっていった。毎春ポートランドに戻ってきてストリート・ペーパーを売り、夏はオレゴン沿岸部に滞在、冬は南へ移動、そうやって国内を旅する生活を続けた。
「いつもファンタジーのような世界でした」とチャールズは言う。「長い間私は旅をし、場所を移動することで現実と向き合うことを避けていたのです。そしてそれを実現できるお金も得ていました」
 06年、彼はアイダホ州のコー・ダリーンに移動して皿洗いの仕事を見つけ、犬を飼い、トレーラー生活を始めた。それは彼にとって27年ぶりに得た安定した住居だった。またアルコール依存症更生会を見つけ、家族との再会も果たすことができた。しかしその生活は長くは続かない。すぐにまた彼は依存症に陥ってしまい、なじみの深い放浪生活へと舞い戻ってしまう。
 そして11年7月、彼は再びふらっとポートランドへ戻り、『ストリート・ルーツ』の販売の仕事を始めた。そして7月22日にアルコール依存症更生会の集いに参加する。「当時の私はこのまま飲み続けるか、あるいはストリート・ペーパーを販売するかの選択肢しか残されていませんでした」とチャールズは語る。彼は後者の道を選び、そして今でも週に数回アルコール依存症更生会の集いに出席している。彼が禁酒を始めて15ヵ月以上が過ぎた。
 そして昨年の12月、ポートランドのシェルターで4ヵ月暮らした後、彼は1979年以来初めてアパートの賃貸契約を結んだ。「定住したことのない私にとって、これは大きな出来事でした」。賃貸契約書や関連文書に署名しながら、彼は淡々と語った。30年にも及ぶ放浪生活にやっとピリオドを打つ時が来たのだ。アパートはLEED(環境性能評価システム)ゴールド認証を受けた建物で、小さなワンルームだったが生活に必要なものはすべてそろっていた。ベッドに浴室、簡易台所、そして日光がたっぷり入る大きな窓もあった。
 ここに住むようになってから、彼は我が家らしくしようと窓辺で植物を育て始めた。夏の間は自分で育てたトマト、パプリカ、ナスやハーブを収穫し、調理して食べた。いつも新鮮な空気を取り入れたいから、1日中窓を開けていると言う。そして屋内で寝るようになってから、苦手だった都市生活も克服することができた。
 最近、外来によるアルコール依存症の治療計画も無事終えることができた。また依存症更生会にも積極的に参加している。
「この仕事をしていれば、忙しくしていられます。孤立せずにすむんです。禁酒している時には、孤立してしまうのが何よりよくないのです。孤立こそが、昔の生活に舞い戻ってしまう主な原因ですから」
「今、自分にあるのは今日だけ。それを真っ当に生きることが大事です。1日1日着実に前進していきたいと思っています」

『ストリート・ルーツ』
1冊の値段/1ドル(約115円)で、そのうち75セント(約86円)が販売者の収入に。
販売回数/月2回刊
販売場所/オレゴン州ポートランド

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

この記事が掲載されている BIG ISSUE

251 号(2014/11/15発売) SOLD OUT

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