今月の人

三浦豊作さん

人と話すのが苦にならない。 道案内のついでに買ってくださる方もいる

三浦豊作さん

「この仕事、すごくいいです!気持ちが落ち着きます」。三浦豊作さん(49歳)は噛みしめるかのように現在の心境を語り出した。

現在、東京・銀座中央通りの三井住友銀行前を主な担当地区とする三浦さんがビッグイシューの販売者になったのは一昨年の12月8日、東京での発売がスタートしたばかりの頃のことだ。

甲信越地方出身の三浦さんは、その年の夏から上野公園で野宿生活に入っていたが、当時はちょうど4ヶ月間務めていたアルバイト先を辞めなくてはならなくなった時期。そんな折、たまたま都内の某教会で毎週日曜に行われる炊き出しに行ったところ、初めてビッグイシュー販売者という仕事があると知った。翌日の説明会に参加し、その日の午後には上野の丸井百貨店前で2時間の販売実習を体験したのだが、なんとその場でいきなり11冊も売ってしまった。

以来、上野から銀座へ場所を移しながらも今日までほぼ毎日、日曜と昨秋以降の雨天時、風邪で休んだ日を除いて街頭に立ち続け、気がつけば東京の販売者の中で今や古株の部類に入っていた。

「組織の一員というかたちで働くのが性に合わないところがあって、今までどの職場に行ってもあまり長続きしなかったんですよ。その点、この仕事は働く時間も場所もかなり自由がきいて、しかもノルマみたいなものもまったくない。ですから、この齢になってこういう仕事に出会えたことには何か運命的なものすらも感じてしまっているほどです」

そう語る三浦さんだが、実際にお会いしたご本人は人づきあいが苦手なタイプにはまるで見えない。それどころか過去にはホテルやレストランでの接客業、あるいはアニメ制作会社で撮影の仕事をしたり、企業PRビデオの制作会社などでも働いた経験があるというだけあって、人あたりも実にソフトで社交的に見える。

一昨年にホテルの仕事をやめた後、映画の脚本の仕事をしたいと考え、実際に書き上げた作品を都内の映画会社に持ち込んだこともあったという。

「ところが作品を見たその映画会社の担当の人から『これじゃ商業作品にはなりませんよ』と言われて」と苦笑する。

そんな折に出会ったのが、過去の職歴とまるで縁のなさそうなビッグイシュー販売者の仕事だった。もっとも、お話をうかがうに、サービス業や映像制作業界で働いた経験が現在の仕事にも役立っているようだ。

「ホテルのフロント係の仕事などもしてきましたから、人に会うのが今でも全然苦にならないんです。実は銀座でビッグイシューを売ってる最中に通行人の方々からよく道を尋ねられたりするんですね。もちろん、私も銀座の地図をすべて暗記しているわけではありませんし、中には『○○事務所はどこにありますか?』とか聞かれたりして困ったこともあるのですが。そういう場合も『わかりません』で済ませるのではなくて、交番や正式な案内所の場所をお伝えするなど、きちんとお答えするようにしています。それでついでに買ってくださる方も結構いらっしゃいますからね」

こうした三浦さんの几帳面な性格は、販売の仕事を長く続けていくのに必要な自己管理の面でも役立っているようだ。というのは、手元にいつも携帯しているというB7判の手帳を見せていただいたのだが、そこには販売者の仕事を始めて以来の毎日の仕入部数や販売成績、売上額、勤務時間、はては時給換算した収入や1時間あたりの平均販売部数までがビッシリと記録されているのだ!

それによると、これまででもっとも販売部数の多かった月は昨年3月の489冊。雨の日が多かった5~6月には減少したものの、その後は月2回刊になったことも手伝ってか、再び増える傾向にあるという。買っていく読者は女性が多いが、銀座の場合は20代が少なく、もっぱら30~40代が中心。1時間あたりの平均販売部数はおおむね3冊だとか。

「理想は1時間あたり5冊。だから私はまだまだ少ないと思います」と謙遜する三浦さん。モットーは「細く長く」「毎日こつこつ」「他の販売の人たちの足を引っ張らず、チームワークも決して乱さない」など。販売成績をさらに延ばしたいとの思いもある一方、今後も無理はせずにあくまでマイペースで仕事を続けていこうという姿勢のようだ。

一方で、元脚本家志望の三浦さん、道行く人々の姿を眺めながら「あの人は映画スターになれるのでは」「あの人を起用すればこんなストーリーができるのでは」などと考えるのが好きだとか。

そんな話を聞けば、もう一度脚本家を目指せばいいのにとも思うが、販売者の仕事との出会いを運命と感じていて、「私にとっては安住の地。これからもずっと続けていきたい」と屈託ない。

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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