販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
今月の人「新春座談会」(後編)
お客さんたちが、生きる勇気をくれる。もう「ありがとう」って感謝の気持ちしかないよ
「今月の人」はじまって以来、初の新春座談会。後編では、大阪の販売者、Hさん(55歳)、Kさん(40歳)、Uさん(40歳)が、クラブ活動や仲間の大切さ、お客さんへのメッセージについて語り合います。
― 編集部 販売者さんのクラブ活動についてはどうですか。
U 歩こう会や写真部、バンドとかすでにいろいろあるけれど、映画部を立ち上げてみようかな。お金を毎月積み立てて、貯まったら映画を観に行って、そのあとに感想を書いてお客さんに配布したり。Kさんは鉄道に詳しいから、鉄道部というのはどう?
K 北海道の鉄道なら8~9割、制覇しましたよ。この辺りでも最近、新型車両が入った路線があるから、今年はまたいろいろと乗ってみる機会つくっていければいいなと思う。僕のほかにも、鉄道雑誌を毎月買っている鉄道好きの販売者さんがいるし、声をかけてみようかな。
H フットサルも参加してみたらいいよ。俺は一昨年にホームレスワールドカップで、ミラノへ行かせてもらって、すごくいい経験になった。仲間たちと何かに取り組むというのは貴重な体験だよ。俺、心のもち方が変わったもん。だから、ぜひおすすめしたいね。
K クラブ活動とは少し違うけれど、お客さんに配るフリーペーパーを作ってみたい。一人で作るのは大変かもしれないから、何人かの販売者さんと共同でね。
H とにかく、仲間がいる、話せる人がいるってことは本当に大事。一人はやっぱりつらいもん。俺たちホームレスって基本的に孤独でしょ。昔、夜中になると足音一つにもビクッとしたもんだよ。一人でいたら、考え方がどうしてもマイナス思考に陥ってしまうけれど、話せる人が身近にいると全然違ってくる。人と話せる機会があればあるほど、いいと思うんだ。
U 今、4人で野宿をしているんだけど、その仲間たちと話をしたり困ったことを相談したりできるから、救われている面がある。もし話せる人が誰もいなかったら、日常で笑うことなんてないだろうなと思う。何人かと一緒にいると、一人ではできないこともできる。そういう意味ではビッグイシューのクラブ活動は人とつながれるいい機会。販売者の中でもクラブ活動に入りにくそうにしている人もいるから、そういう人にもなんとか声をかけてあげられたら。
H ボランティアの方とかお客さんと話せることも、ありがたいよね。
K 僕は野宿者ネットワーク代表の生田武司さんのセミナーとか教員対象の講演会などに呼んでもらって話をするという経験を何度かさせてもらったんです。そこに来られていた方とはホームレス問題だけに限らず、さまざまな話ができて勉強になりましたね。
H 他の団体が行っている夜回りにも参加しているんだけど、いろんな人たちとかかわりをもつことは自分自身の成長にもつながると感じるよ。
U 僕らにとっては本を売ることがまず大切なことだけど、そればっかりだと滅入ってしまうと思う。一人の世界に閉じこもらず、人と接するというのもとても大切なことだよね。
― 編集部 ちなみに今年は兎年ですが、皆さんはご自身を動物に例えると?
U うーん、僕はネコかな。それもチンチラ。ジーッとしているんだけど、じつは何かを考えていそうな感じがするというところが似ているかな。
K 僕はなんだろう。難しいなぁ。……日本雷鳥かな。標高の高い厳しい環境にあっても、けなげに生きているところが。
H かっこいいなぁ。拍手が起こったじゃん(笑)。俺はサルかな。いつの時代もおもしろおかしく生きていたいなっていう意味でね。でも、今年は兎年ということで、ピョンピョンピョーンと三段跳びをして、アッという間だったと感じる充実した一年にしたい。
― 編集部 最後に、お客さんへのメッセージをお願いします。
H 生きる勇気をくれて、本当にありがとうございます。もう、それしか言えない。販売者となってからの2年、お客さんに育てられたようなもんです。300円あれば牛丼を一杯食べられるんだからね。決して安い買い物ではないと思うんだ。俺たち販売者って、お客さんに対しては「ありがとう」しかない。
U お金をいただいて本を渡す。ほんの一瞬のおつき合いなんだけど、もう感謝の気持ちしかないですね。自分なりにがんばりながら、なんとか生き延びていきたいと思っています。ぜひ、見ていてください。
K いつも応援してくださって、本当にありがとうございます。朝の通勤で忙しいのに、それでも買ってくださる方もいて……。忘れられないお客さんばっかりです。これからもよろしくお願いいたします。
U 暑い日、寒い日、心配して声をかけてくださるのも本当にうれしい。
H そういうお客さんとのつながりがあるからこそ、自分の持ち場に愛情が湧くんだろうね。いろんな思い出が生まれて……。ビッグイシューを卒業しなくちゃいけないと思うけど、あの場所を離れるのかと想像すると、ついウルッときちゃうんだよね。
― 編集部 まだまだ話は尽きませんが、Hさん、Kさん、Tさん、お忙しい中をお集まりいただき、本当にありがとうございました。
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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特集鶴岡真弓ゲスト編集新春対談 佐野史郎×鶴岡真弓