販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
『トラソス』販売者 ティファニー・イザベラ・ブランコ
43歳の今、やっと本当の自分を取り戻した
「今は、毎月目標を達成しているような気持ち」
「夢を実現させるためにブラジリアに来たんです」
ティファニー・イザベラ・ブランコは柔らかくも意志の強い声でこう語った。
ブラジルの首都・ブラジリアで『トラソス』の販売に従事する前、ブランコは2年前に創刊された姉妹誌『トラソス・リオデジャネイロ』で働いていた。「当時は、悲嘆に暮れていましたね」
2021年、政府関連の技術者として働いていたブランコは、コロナ禍で仕事を解雇されるという憂き目にあった。部屋からはエアコンが消え、ジムの会員証を返却し、ついには家賃を払うお金もなくなった。そしてアパートの鍵を返した後は、ホームレス状態にある人々のためのシェルターに入居した。「自尊心をすっかりなくして、打ちのめされました」
ネガティブな思考が心に渦巻く中で、それでも新しい職を求めて前進しようとしていたブランコが見つけたのがあるポスターだった。
「ブラジリアで『トラソス』という雑誌が路上にいる人々を応援しているという内容で、衝撃を受けたんです」
その『トラソス』の姉妹紙がリオデジャネイロにもあることを知り、自らもすぐに販売を開始。文化に造詣が深く、人々との交流も好きだったブランコに、この雑誌が変化の兆しをもたらした。新しい人とのつながりもでき、ついには自分の居を構えることもできるようになった。
だがパートナーからの虐待により、リオデジャネイロを去らなければならなくなり、しばらくサンパウロに身を寄せた。そして所持金が尽きたブランコは性産業に従事することになった。「当時はいつも暴力がそばにありました」
ブランコはトランスジェンダーの女性として、多くの苦難もくぐり抜けてきた。多くの心の傷を抱え、15歳の時には自殺未遂もした。自らのアイデンティティを否定され、レイプ未遂も経験し、自らが実子ではなく養子であることを予期せぬ時に知らされ、母の投獄、父の小児性愛の発覚など、数えきれない重荷を背負ってきた。
32歳で母が亡くなったことがきっかけとなり、ブランコは女性となった。そして43歳の今、やっと本当の自分を取り戻したと感じるという。そしてブラジリアに移住し、定住できる場所と定職を見つけたいと考えている。
これまで多くの関係性に傷つけられてきたが、『トラソス』との関係性が今は一番大事だという。
「実りが多いですから。今は、毎月目標を達成しているような気持ちなんです」
Text: Maíra Valério, Traços/INSP/編集部
『Traços』
1冊の値段/10レアル(そのうち7レアルが販売者の収入に)
発行頻度/月刊
販売場所/ブラジリア、リオデジャネイロ
Photo: Thaís Mallon
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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