販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

オーストリア『アプロポ』販売者 コステル・バルブ

気づけば18年、第2の故郷となったザルツブルク。
街の美しさ、人々の敬意に感謝

オーストリア『アプロポ』販売者 コステル・バルブ

ザルツブルクを舞台にした歴史小説を執筆する作家のゴアク・マンフレッドは、3年ほど前『アプロポ』の販売者コステル・バルブを取材した。それからほぼ毎日、二人はイッツリング地区にある食品店「スパー」前で顔を合わせるようになり、友情を育んできた。マンフレッドは今回、いつもの立ち話ではなく、椅子に腰を落ち着け、コステルを3年ぶりに取材。『アプロポ』にインタビュー記事を寄稿した。

 彼の〝コステル〟という名前は「コンスタンティン」(頼りがいがあるという意味)のルーマニア語版だ。その名に違わず、コステルは1日10時間もの間、忍耐強く「スパー」の前に立って『アプロポ』を販売している。
 通訳のアリナを通してコステルの話を聞くのは、私にとっても特別な時間だ。3年ぶりのインタビューとなる今日、私はコステルの未来について話を聞いてみたくなった。でも誰かの未来の話が聞きたいなら、まずは過去を知り、現状を理解することから始めなければならないだろう。
 コステル・バルブは1962年2月10日に南ルーマニアのクラヨバで生まれた。8年間学校に通い、職人見習いや兵役についた後、クラヨバにある大きな工場で職を得た。だが政治状況の変容から経済は大打撃を受け、失業。手当てを1年間もらった後は、収入も職もない状態になっていた。
「兄弟のイオネルが2005年にザルツブルクへ来ていました。まさか自分も故郷のルーマニアを去る日が来るとは思ってもみませんでしたが、二人の娘の結婚資金が必要でした。そのために自分もザルツブルクへ行ってみようと思ったんです」
 1年が2年、2年が3年となり「気づけば18年が経っていました」とコステルは笑う。ザルツブルクはコステルにとって第2の故郷となった。「街の美しさ、またみなさんが敬意をもって接してくれることに感謝しています。オーストリア人は一見いつも真剣で、時に冷淡に見えても、心は温かいんですよ」
 コステルはこれまで経験した素敵な出会いについてよく語る。対して、気分を害した事件については多くを語らない。
 コロナ禍ではマスクと手袋をして『アプロポ』を販売していた。それでも警察に通報する人がいて、1ヵ月ものあいだ仕事ができなかった。その時にはルーマニアの娘からの仕送りに頼っていたという。
「どの森にも棘のある木があるものです」とコステル。「失礼な人もいますが、私ももう62歳です。そのことをずっと気にしている時間がもったいないんです」と笑う。
 あと3年は雑誌販売の仕事を続けたいと言う。「65歳になるとルーマニアで年金がもらえます。故郷には父が残した家もあります。ルーマニアの年金は少ないですが、小さな農場で野菜や果物をつくって近隣のみなさんと助け合っていければと思っているんです」
 でも、その前にお楽しみが待っている。2025年は『アプロポ』の20周年だ。
「もし20周年記念号の表紙に、販売者の自分の写真が掲載されたら最高ですね。ちょうどザルツブルクに来て20年になるんですから、こんなに良いタイミングはないでしょう?」
 そう語るコステルの目は、キラキラと輝いていた。

『Apropos』
1冊の値段/3ユーロ
発行頻度/月刊
販売場所/ザルツブルク

Text:Manfred Goak, Apropos/INSP/編集部

Photo: Daniel Huber

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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