販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
台湾『ビッグイシュー台湾版』販売者 メイユー・ラン
病気を抱え13年売り場に立つ
街の顔となり、付いた呼び名は“五虎大将軍”(ごこだいしょうぐん)
台北アリーナ近くのIKEAで買い物を終えた人々が、雨風を避けながら足早に通り過ぎていく。そのうちの一人がメイユー・ランに声をかける。「長春路にはどうやったら行けますか?」
ランは答える。「その道を下って、保険会社のところを左に曲がってね」。雑誌の販売中、通りすがりの人々に挨拶をするラン。雨の降りしきる今日、ランの売り場で足を止めたのは、まだ道を尋ねた通行人だけだ。
「私はね、この地区の管理人なの」とランは笑いながら誇りをもって言う。『ビッグイシュー台湾版』が立ち上がった13年前から販売を続ける彼女は、当時の売り場近くの高級ホテルで働く従業員らとも親しくなった。売り場に姿が見えない日は「ランは元気かい?」と、ホテルへ通う客がスタッフたちに尋ねるまでになった。
台北市出身のランは販売を始める前、南部の嘉義市で稼業を営んでいた。「友人がビッグイシューのことを教えてくれて、それで台北に戻ってきたの」
そう説明する彼女には、確かにビジネスのセンスがある。というのも、選んだ売り場は台北アリーナにほど近く、表紙を飾った有名人のイベントが催される際には売り上げが大きく増えるのだ。人気シンガーのクラウド・ルーが表紙となった号の発売と同時期に、偶然にもアリーナで彼のパフォーマンスが行われた。「あの時はよく売れたね!」とランは笑う。また、国民的歌手であるチアー・チェンのライブに訪れた観客たちは、ランの売るビッグイシューを購入するだけでなく、ネットを通じて他のアーティストのファンに向けても同誌を宣伝してくれた。
『ビッグイシュー台湾版』の創刊当時、ランを含む5人の販売者たちは、その活躍ぶりから歴史小説『三国志演義』にちなみ〝五虎大将軍〟(※)と呼ばれた。「お客さんを欺かないこと、そうすればやさしく接してもらえる」とランは話す。彼女の常連客の中には、車で1時間ほどかかる新北市北部の淡水区から毎月やって来る女性や、10冊から20冊は必ず購入していく店舗経営者もいる。
長年糖尿病を患うランは昨年、脳卒中で倒れている。休みを取るつもりはないのか尋ねると「いいや、働き続けるよ」との答え。コロナ禍で紙媒体の売り上げが落ち込む中にあっても、透析を受ける必要のない火曜と木曜、週末には売り場に立ち続ける。買いに来てくれるお客さんのために。それに仕事をしていると、病気のことを忘れられるのだという。
ランの話を聞き終わる頃、雨は止んだ。今日、売り場を訪れた2人目は、道を尋ねる通行人ではなく、彼女から雑誌を買い求めに来たお客さんだった。ランの顔に笑みが浮かび、彼女の一日がやっと始まるようだった。
Text:Tzu-hua Chen, The Big Issue Taiwan/INSP
誰とでも率直な態度で接するメイユー・ラン。“五虎大将軍”と呼ばれた当時は、豪傑として名高い関羽に例えられることもあったという
Photo: Tzu-hua Chen
約1万5000席の大型ホールを持つ台北アリーナでは、音楽やスポーツをはじめ多彩なイベントが開かれる
Photo: Jui-Chi Chan/Alamy Stock Photo
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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