販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

スイス『サプライズ』販売者 トレスファレム・ゲブレミケル

娘に会いたい。投獄の恐れで帰れないエリトリア
今の“ホーム”、スイスで故郷の味を振る舞う

スイス『サプライズ』販売者 トレスファレム・ゲブレミケル

私は、トレスファレム・ゲブレミケル。アフリカ北東部の国、エリトリアから来ました。でも〝ホーム〟はどこかと聞かれれば、「スイス」と答えるでしょうね。13年間ここで働き、暮らしてきましたから。
 スイスには真っ当な法律があり、人間らしく扱ってもらいました。エリトリアから来た者としては、それは当たり前のことではありません。軍に対して少しでも批判的なことを口にすると、裁判もなしに刑務所で数ヵ月過ごさねばなりませんから。私が投獄された時は、父が大金を払わないといけませんでした。多くの人々が何度も投獄されては保釈される現状に、エリトリアにはもういられないと感じました。
 スイスに到着すると、幸運にもすぐ友達ができ、仕事を得ることができました。難民センターで仕事を紹介してもらい、半年の間レタスの真空パック詰めに携わりました。
 そして冬の訪れとともに、初めて雪を見ました。寒い気候に慣れておらず外での仕事はつらかったのですが、幸い教会の知り合いがレストランでの仕事を提供してくださいました。エリトリアではパン屋でしたので、この仕事はとても性に合いましたね。故郷では伝統的なパンを焼いていましたが、こちらではタルト・フランベ(※)やクロワッサンを作っています。上司がとても良い方で、その人のもとで修業を積んで、今ではフルタイムで雇ってもらい週4日働いています。
『サプライズ』のことは、まだドイツ語もおぼつかず、在留資格もない時に友人が紹介してくれました。雑誌販売を通して多くの人と知り合うことができ、ドイツ語を学ぶのにも良い環境でした。今ではレストランの仕事が休みの日に『サプライズ』を販売しています。エリトリアにいる娘を経済的に援助するためです。
 娘は7歳の時にスイスに一度来ましたが、こちらの生活は居心地の良いものではなかったようです。孤独でよく泣いていましたね。なのでホームシックが深刻化する前に、家族のもとに戻りました。また会いたいと思いますが、エリトリアに帰ると私は刑務所に入れられるでしょう。
 エリトリアに帰るまでの間は、こちらの教会の人々が私の家族です。世界中から集まった人たちで、アラブやアジアにルーツをもつ人も多いです。毎週日曜日にはともに食事をし、互いに故郷の料理を振る舞います。
 私は、スパイスで味付けした肉や野菜を薄い生地に包んで食べるエリトリアの料理「インジェラ」が大好きです。大皿に盛って大人数で手で取り分けて食べるので、コロナ禍には敬遠されるかもしれません。でも大丈夫。今ではタルト・フランベやクロワッサンも作れますから、友人と楽しく食事ができます。

※長方形や円形の薄い生地に、チーズや玉ねぎ、ベーコンなどをのせて焼く。

Text:Dina Hungerbühler, Surprise

Photo: Courtesy of Surprise

Photo: MagicBones/Shutter stock

(Photoキャプション)

トレスファレム・ゲブレミケル、47歳。チューリッヒのクルス広場と、南に位置する村キュスナハトで販売している

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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