販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

柴木芳男さん

早く自立をして、ビッグイシューの応援に回りたい 。

柴木芳男さん

いつも物を考えている人。それが、神戸の中心地である三宮センター街入り口で販売をする柴木芳男さん(57)の印象だ。
「場所によって声を出す・出さない、立つ場所がほんの10~20センチ違っただけで売れ行きが変わるな、などいつも研究しています。ビッグイシューが立ち上がったばかりの頃に東京で開拓部隊もやっていたから、その頃の影響もあるかな」

今から4年前の04年に東京にいた柴木さんは、まだ発足したばかりのビッグイシューでの販売も経験している。さまざまな場所に試験的に立ち、販売できる場所かどうかを調べる。新宿・高田馬場・早稲田・三鷹・吉祥寺・渋谷。特攻隊と言ってもいいかもね、と笑う。

第1回紅白歌合戦が放送された51年(昭和26年)、柴木さんは新潟の長岡市に生まれた。この年は赤痢が流行した年でもある。柴木さんも幼少の頃に疫痢(※)を患った。今でも腕や足に残った治療の注射の痕を見ながら柴木さんは言う。
「その時のことをうちの親は何度となく教えてくれたんだけど、それがすごく嫌だった。例えば、小学校6年生になっても先生が家庭訪問に来た時に、毎回その病気の時の話を親がするわけ。俺はそれがすごく辛くて、『それだったらいっそのこと、死んだ方がよかったじゃないか』って。生かしてもらうのはうれしいことなんだよ。だけどそうやって小さい時から病気のことを言われてきたら、子どもとして小さくなる。萎縮して、その殻から出ることができない人間になっちゃう」

幼少時代の疫痢を克服し、中学校を卒業した柴木さんは家を出て、住み込みの大工見習いになる。しかし、仕事の時にノコギリを持つと、なぜか必ず左に曲がった。どうやってもまっすぐひくことができない。理由がわからなかった。
「俺が悪いんだ、俺が悪いんだと責めながら毎日を過ごしていたね。大工見習いを辞めさせられた後に、自衛隊に入ってそこで調べてもらったら、目が一点を見ることができないということが初めてわかった。そりゃあショックだよ。大型免許を取ろうとしたら普通免許に格下げさせられるんだもん。自衛隊の担当が自動車学校の所長宛に手紙を書いてくれて、やっと免許を取らせてもらったんだよ」

陸上自衛隊に18歳で入隊すると、約20年間も在籍した。神奈川県横須賀市内にある武山駐屯地で入門コースである新隊員教育を受け、同じく新潟県の新発田駐屯地、高田駐屯地に勤める。そこから北海道へ配属されて8年間過ごした頃に、突然父親が訪ねてきた。
「手には、当時の内閣総理大臣・田中角栄の押印付の書類を持ってね、故郷に連れ戻しに来たんだ。もちろんそんなものを持って行ったら隊はすぐに応じたね。それで新潟の新発田駐屯地に戻った。そこで36歳の時に子連れの女性と結婚した。子どもが洋裁学校に入ったのを見届けて離婚をして、4年くらいの結婚生活だったな」

それから自衛隊を辞めた後しばらくして、仕事を求めて上京する。販売業や土建屋をやって食いつないだ。生活を安定させるには厳しく路頭に迷っていた頃、ボランティア団体のスタッフにビッグイシューを紹介してもらう。ビッグイシューがまだ創刊して5ヶ月目の04年1月のことだった。

東京での販売者を卒業、就職しガードマンになったが行きづまり、京都に移った。京都でもビッグイシュー販売にかかわり、就職をしたが自分に合わず、神戸で再びビッグイシューを販売することになった。
新開地の簡易宿泊所で寝泊まりをし、いつもだいたい9時半から21時頃まで三宮の路上に立つ。月に6日ほど臨時で神戸市東灘区の岡本で販売することもある。岡本は大学が多く、カフェや雑貨店が多く並ぶ学生街でもある。そこで若い世代に、こういう本があると知ってもらいたいと、定期的に遠征している。

「この街にどんどん愛着が湧いてきた。前に子どもたちにインタビューされたことがあって。『三宮は住み良い街ですか』と。ごみがそこら中に落ちているんだもん。住みよい街じゃないでしょうって答えたよ。それから子どもたちが3日間にわたってごみ拾いをしているのを見た。俺も何かしなきゃなって思ったよ。そういう活動ができる場をつくろうって。そして早く自立をして、ビッグイシューの応援に回りたい。みんな就職しても友達がいないんだもん。自分の中で悩んで苦しんで、また元の生活に戻っちゃう。ホームレスに戻らないためのケアもしたい。それが今の目標です」

いつも悩んで考えてきた。孤独が人を無気力にすることも知っている。柴木さん自身も、「元気ですか?」と携帯電話にかかってくる支援者たちからの連絡が、何より一番の楽しみなのだそうだ。

※疫痢
3歳から6歳ぐらいの小児にみられる、細菌性赤痢の一病型。発熱・嘔吐・ひきつけ・意識混濁などを呈し、死亡率が高かったが、近年、重症例は少ない。

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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