販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

立花さん

「やりたがり精神」をいつも大切に 行動を起こしていきたい

立花さん

いつものように300円を差し出しビッグイシューを受け取る。すると、冊子とともに何やら袋に入ったおまけが一つ。昨年の10月からJR天王寺駅公園口で販売を始めた立花さん(45歳)から本誌を買うと、折り紙がついてくる。クリスマスシーズンにはサンタクロース、正月は干支のネズミ。昨年末にようやく入居したドヤやビッグイシュー事務所などで、毎号ごと約300個を黙々と折っていく。最近は常連客に「次は何を折るんですか?」と尋ねられるようになった。

「自分に何ができるかと考えていて、『東京で折り紙をやっている人がいるけど、大阪では誰もやってない』とスタッフに聞いて、じゃあやってみようと。ちょうどクリスマスでサンタを作ってみたら喜ばれたんです。『クリスマスプレゼントのお返し』と言って、お菓子やホッカイロなんかをくれた方もいましたね」

別に折り紙の名手というわけではない。昔からお人好しで「やりたがりぃ」な性格。ビッグイシュー販売員がライブ活動しているバンドOHBB(大阪ホームレスビッグバンド)にも即、参加を決めた。

立花さんはもとは北陸の出身で、6~7年前までは家業の写真館を営んでいた。
「最初は北陸と名古屋の支店を行ったり来たりしながら、営業のサラリーマンをやっていたんです。親父が『写真館はこの先見込みがないから、好きな仕事やっていいよ』って」

結婚し、時々家の仕事を手伝いながら会社勤めを続けていた33歳の時、父親が亡くなる。立花さんは会社を辞めて写真館を継ぐことにした。

「写真はやってみると奥が深い。その一瞬の一枚を撮るわけですから。デジカメだったら撮るたびに確認して撮り直しができるけどね。それ以前から500~600円入れたらその場で写真が出てくるような自動のインスタント証明写真の時代になっていたし、それからさらにデジタルカメラの時代になって。僕らの子どものときは、お正月になったら家族揃って写真を撮るのが普通だったんですけどね。今は核家族化でバラバラ。そこまでやらなくてもっていう感じになってるじゃないですか。お客さんが来なくては写真屋もつぶれていきます」

経営はかなり苦しかった。銀行で借りている金も返さないといけない。追いつめられた立花さんは写真館を継いだ5年後、店舗兼自宅を売却する決心をした。その5年の間に母親も祖母も亡くなり、離婚し、気がつけば一人きりになっていた。そうして38歳の頃に単身大阪へ。

「大阪にはもともと親戚がいて、ちっちゃい時によくこっちに遊びに来ていたんでね。名古屋に行くか大阪に行くか迷ったんだけど、大阪は何というか・・・。うん、埋もれやすいんだね」

大阪の街をぶらついていると手配師に声をかけられ神戸へ。簡易宿所に入って働いた。その内に現場のリーダーに抜擢され、夜勤と昼勤が入り乱れた激務。夜勤手当もつかず、身体も精神もぼろぼろになっていく。仕事中に一時間近く激しい動悸が治まらないこともあった。

「自分でも死んじゃうんじゃないかってね。それで5年間働いたそこを辞めて、去年の5月に大阪に戻った。二日間くらいはほとんど何もせずただベンチに座って。『病気はどうなるんだ、今から何をしたらいい』って人生イヤになって、もう死んでもいいかなあって薬を飲んだこともある。でも、死にきれなかった」

路頭に迷っていた立花さんは釜ヶ崎パトロールの会(大阪キタで野宿者運動に取り組む団体。定期的なパトロールの他、炊き出しや入院したホームレスの訪問なども行っている)と出会う。炊き出しの情報を教えてもらい、中之島での路上生活と夜中のアルミ缶集めをしながら、一日一食でもなんとか食いつないだ。

「それでもやりたがりですから、釜ヶ崎の夏祭りでは屋台でキャベツ焼きをずっと焼いていました。行事とか文化祭とか、ものはためしでやるタイプ。ビッグイシューも中之島で知り合った仲間にすすめられて半信半疑の中、やるだけやってみようと思った」

現在は7時から19時まで販売。OHBBのライブやイベント以外に特に休日は作っていないが、体調は良好だという。

「アパートに入ったので布団で寝られるだけでも体調万全! 今の目標はそうですね、若い人たちも明日は我が身という状況に追い込まれていますから。OHBBのライブにも参加させてもらって、我々の事情なり苦しさなりを、みんなに知ってもらいたいですね。私がパトロールの会に色々と教えてもらい助けられたように、僕らができることで行動を起こしていきたい」

写真館で撮っていた写真のように、生きて行くことは撮り直しがきかないことを、立花さんは確実に知っている。だからこそ「やりたがりな精神」をいつも大切にしているのかもしれない。

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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