今月の人

長嶋昭治さん

俺を幸せにしてくれたビッグイシューに新しい事務所を建ててやりたい

長嶋昭治さん

とにかく威勢のいい人だ。今春からJR目黒駅西口で販売している長嶋昭治さん(62歳)に会って、まずそう思った。そしてとても親しみやすい。「通行人すべてがお客さん」との言葉に偽りはなく、雑誌を買ってくれる人にもそうでない人にも分け隔てなく挨拶し、声をかける。

長嶋さんの人懐こさにつられて、町の人も気軽に話しかけてくる。雑誌を買ったことはなくても、通るたびに「ご苦労さん」と労ってくれるおばあちゃんもいる。やんちゃそうな中学生までが「おじさーん、頑張ってんなあ」と声をかけてくる。ふざけて「買えよ」と言うと、「買わないよ」と言い返す。でも「お前ら、悪いことしちゃダメだぞ」と注意すると、「はーい。おじさんに怒られるからやんないよー」と意外と素直に応じるそうだ。

それだけではない。駅を気持ちよく使ってもらえるように、販売場所の周囲を掃除するという細やかな気配りも忘れない。その気持ちが伝わったのか、最初は見慣れない珍客に戸惑い気味だった人たちも、今ではいいお客さんになった。

「人間って誰にでも欠点があるよね。それを自分のやれることでカバーするのが大事。俺にできることは、毎日ここにいてお客さんに安心感を与えることかな」

朝7時半から夜7時半まで立ち続け、あまり売れないのではないかとスタッフから心配されていた目黒で、月に600冊も売り上げる長嶋さん。カバーすべき欠点など何もない、優秀な販売員に見えるのだが……。

実は長嶋さんは、「曲がったことが許せず、正しくない行いを見ると、すぐカッとなってしまう性格」なのだとか。かつて新宿や渋谷を根城にしていた頃も、いつも喧嘩ばかりしていたそうだ。とある教会でボランティアをしていたときは、働きに応じてもらえるチケットの配り方が平等でないことにカッと来て、聖書を投げつけようとしたこともある。
「聖書をぶん投げようとした俺の手を友達が引っ張ってさ、肩がはずれちゃったっていうのは有名な話だよ」

その一方で、困っている仲間を放っておけない優しい一面もある。病人を役所まで連れていったこともあるし、粗相をしたお年寄りをトイレに連れていき、ズボンを穿き替えさせたこともある。そのうち仲間から何かと頼りにされ、「倒れている人がいるから何とかしてくれ」と、皆が長嶋さんを呼びにくるまでになった。

「バカだからさ、一銭にもならないってわかってても、体が自然に動くんだよな」
と、さっぱりした江戸っ子のような性格の長嶋さんだが、生まれは千葉県だ。

「おやじは一応軍人だったけど、道楽者の博徒だった。偉そうに幹部になんかなるからさ、敗戦後、軍事裁判にかけられて死刑になったんだ。銃殺くらったのに運よく死ななくて、結局5年も生き長らえた。おやじの裁判に関わった軍人の息子が、自分も軍人になって俺たちのところへ謝罪に来たこともあるけど、そのときも恨む気持ちは湧いてこなかったよ」

30年以上、日本に駐留し続けた彼とは、その後もずっと交友関係が続いたそうだ。長嶋さん自身は魚屋、肉屋、八百屋、プラスチック工場、パチンコ屋、鉄筋屋など、いくつもの職場を転々とした。

「いろいろな世界を見てみたいという気持ちもあったし、こんな性格だから頭にくることがあると、えいくそっと辞めてしまうんだよな。行き当たりばったりの器用貧乏。それが失敗のもとで5年前、ついにホームレスになっちゃった」

途方に暮れて炊き出しの列に並んでいたとき、ビッグイシューのスタッフに声をかけられて販売員となった。

「今が人生の中で一番幸せだね。スタッフも社長も裏表がなくて、悪いことは悪いって面と向かって叱ってくれるから。駅前の宝くじ屋のおばちゃんもガードマンもみんな親切で、販売場所を少しの間離れても雑誌を見ていてくれるしね。今もカッとなることはあるけど、物を投げたり手を挙げたりはしなくなったよ」

町の人やスタッフとの関わりを通して、成長しているのがわかるという長嶋さんには、どうしてもかなえたい夢がある。

「俺をこんなに幸せにしてくれたビッグイシューに、新しい事務所を建ててやりたいの。西新宿にいい土地があるから、あそこに事務所を建てて、地下にはシャワールームをつくってさ、洗濯を待つ間、テレビを見るスペースもあるといいよね。でも何しろ今はまだ金がないのよ」

曲がったことが大嫌いな長嶋さんの瞳は、夢を語るときもまっすぐ前を向いていた。

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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