販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

セルビア『リツェウリツェ』販売者 ヴェスナ、ゾラン、スヴェトラーナ

山あり谷ありの人生行路の末に、出会った3人
文化を楽しみ、気の合う友人と仕事をし、カフェで語らう

セルビア『リツェウリツェ』販売者 ヴェスナ、ゾラン、スヴェトラーナ

セルビアの年金制度は十分に整っておaらず、65歳を過ぎても働く高齢者が多い。ヴェスナ、ゾラン、スヴェトラーナの3人は、『リツェウリツェ』販売者の中でもかなり年配のシニア層だ。それぞれ山あり谷ありの人生行路を経て、同じベオグラードの地にたどり着いたが、彼らの生きる熱意や好奇心は、いまだ衰えることを知らない。
 ヴェスナは若い頃、2つの大学で文学と法律を修め、英国コヴェントリー市にも1年間住んでいた。帰国後は、小規模ビジネスや観光・宿泊業代理店の経営者になった。しかし両親が病に倒れたため、ヴェスナは介護離職して一人で面倒を見ることを決意。
 両親を看取った後、再び元のキャリアに戻ろうと試みたが、資金が回らなくなって生活に行き詰まり、ついに路上生活を余儀なくされた。安定した社会生活から、たちまち坂道を転げ落ちるような日々を送るうちに、「順調に運んでいる時は周りにたくさんの人たちが寄ってくるけれど、一度転落した途端、誰ひとり見向きもしなくなる」と思い知らされた。
 どん底から這い上がったヴェスナは、自らを〝闘士〟と呼ぶ。シェルターに入り、皮膚がんと診断されて高齢者向け医療センターに通院する身になっても、読書をたしなみ、詩をしたため、同センターでさまざまな文化・アートのイベントを意欲的に開いている。
 旧ユーゴスラビア出身のゾランは、大手映画制作会社「アヴァラ・フィルム」で働いていた。会社が倒産すると、彼はタクシー運転手に転身。それでも「内戦中や、外国から禁輸措置や経済制裁を受けていた時期も、稼ぎだけはよかった」と振り返る。
 ところがその後、人生の転機が訪れた。新天地のオーストラリアへ発つ娘の支度金を準備するために、ゾランは父から相続したアパートを手放すことに。2年後には妻が亡くなり、再婚するも離婚。ほどなくして、路上生活が始まった。
 数ヵ月後にシェルターに入ると、気の合うルームメイトが『リツェウリツェ』の雑誌販売について教えてくれた。「今では、どちらが多く売れるか競争していて楽しいよ」と笑う。
「毎日やるべきことがある。薬代も自分で稼げる。多少のお小遣いもある――もう〝自分には価値がない〟なんて思わなくなりました」
 スヴェトラーナは、雑誌販売者になってもう8年になる。大学では、哲学の学士号を取得。卒業後はマーケティング職に就き、紛争で社会情勢が混乱した頃には繊維工場で働いたこともあった。
 彼女は、昔の時代を思い返してこう語る。「あるギター弾きの女の人が言っていたの。『女が強ければ、周りがみんな彼女を貶めるか、こき使うだけだ』って。まるで若い時分の私のようですよ!」
 今のスヴェトラーナにとって、コミュニケーションの場はかけがえのない生きがいだ。
「仕事仲間とグループセラピーにも参加するし、路上で販売している間は人の往来を観察するのが好きなの。素敵なお客さんもたくさんいて、たまにカフェに出かけておしゃべりもしますよ。おいしいコーヒーをおごってもらったら、お礼に雑誌をお渡しするんです」

Text: Dejan Kožul, Liceulice/INSP/編集部
Photo: Anja Mihić

『Liceulice』
1冊の値段/300セルビア・ディナール(そのうちの半分が販売者の収入に)
発行頻度/月刊
販売場所/ベオグラードほか

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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