販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
東京『ビッグイシュー日本』販売者 ヤマノベさん
もうすぐアパートに入居予定
がんばっていたら、誰かが見ていてくれる
「路上は身体的にはしんどい」。そんな風に、351号(2019年1月15日号、完売)の本欄で話していたヤマノベさん。前回の取材のあと体調を崩すなどいろいろあり、しばらくビッグイシューの販売から離れていたそうだ。再開したのは昨年5月。今は、ほぼ毎日のように高田馬場駅前に立つ。
「数年前、急に販売ができなくなったので、みんなに迷惑をかけて申し訳ないという気持ちもあり、体調が戻ったあともビッグイシューには戻らないつもりでした。でも、知り合いの販売者に、『スタッフの人も待っているよ。一度事務所に顔を出したら』と言われて。何度も迷ったんですけどお金もないし、やっぱりこの仕事が好きで戻ってきちゃったんですよね」
販売をやめていた間も、実はこっそり販売者仲間たちの売り場を訪ねていたという。
「たまたま通りがかったフリをして(笑)。昔から接客の仕事をしてきたし、人に会うのが好きなんでしょうね」
そんなヤマノベさんの生活に、最近大きな変化があった。ビッグイシュー基金の「おうちプロジェクト」(※1)で、アパート入居の初期費用支援が受けられることになったのだ。
「販売収入で家賃はなんとか払えても、敷金礼金まで貯める余裕はなくて、今までアパートに入れなかったんです。持病の発作で何度か救急車で運ばれたから、前の取材の時には一人暮らしは怖いと話したけど、このチャンスを逃したらアパートに一生入れないかもしれない。やっぱり路上で死ぬのは嫌だし……」
現在は、期間限定で基金のシェルターに入居中。その間に少しでも貯金しながら部屋探しを進める予定だ。
「ネットカフェとかに泊まっていた時は、荷物を毎日持ち歩かなくちゃいけなかったけど、今は部屋に置けるから身体も楽。料理は好きなので自炊は苦になりません。野菜炒めと白菜の煮びたし、麻婆豆腐をローテーションで作る感じかな。『趣味は掃除』と言えるくらいキレイ好きだから、シェルターを出る時は、入居時よりピカピカにしていこうと思ってるんです」
基金では、料理クラブと家庭菜園クラブに参加。料理クラブでは、メンバーとおにぎりや豚汁などを作って、「前日仕入れ」(※2)の手伝いに来る販売者仲間にふるまう。また、家庭菜園クラブでは、これから事務所のベランダで夏野菜の種まきをする予定だ。「がやがやとみんなで何かをするのが楽しいんだよね」
ビッグイシューに戻って1年、「販売を再開してよかった」と言う。
「駅前に立って、お客さんが近づいてきたら、『あ、前号を買ってくれた人だな』ってわかるから最新号を用意するんです。そうすると『覚えていてくれたんだ』と喜んでもらえる。そう言ってもらえることも好きだし、お客さんのことを覚えている自分のことも好き(笑)」
お客さんから「毎日がんばっているね」と声をかけられた時には、「見ていてくれたんだ」とうれしかったと話す。
「以前、隅田公園で清掃の仕事をしていた時も、通行人の女性が『おにいちゃんの担当場所が一番きれいね』って言ってくれた。人って結構見てくれているんですよね。ビッグイシューに戻ってから、前以上にお客さんに丁寧に接しようと心がけているんです」
※1
コロナ禍で米国コカ・コーラ財団からの助成を受け、協働団体とともに生活困窮者の住まいの基盤づくりを支援するために始まった事業。いまは独立した事業として継続している。
※2 月2回、新しい号の発売前日に事務所にトラックで最新号が届く。手伝いに来た販売者やスタッフがバケツリレー方式で事務所に運び入れる。
Text:中村未絵
Photos:横関一浩
東京・高田馬場駅早稲田口で販売中
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
この記事が掲載されている BIG ISSUE

455 号(2023/05/15発売) SOLD OUT
特集静かに消えゆく昆虫たち
スペシャルインタビュー:ルイス・キャパルディ
特集:静かに消えゆく昆虫たち
リレーインタビュー:ダースレイダーさん


