販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

『ビッグイシュー台湾版』フースイ・ホーさん

仕事中に昏睡し入院。歩行困難となり職を失う
“感謝の気持ち”が私を前向きにしてくれた

『ビッグイシュー台湾版』フースイ・ホーさん

数年前まで、フースイ・ホーは美容師として働いていた。だが、サラセミア(※)を患う彼女は仕事中に昏睡状態に陥り、2ヵ月の入院を余儀なくされた。
 退院後に待っていたのは貯蓄が底をつき、歩行困難となって車いすで生活をしなければならないという現実だった。ホーが一番つらいと感じるのは、もう美容院で働けないことだ。それでもどうにか支援団体や地域の教会からの助けを得て、自らを奮い立たせてきた。
 そして、神父の紹介で出会った知人から『ビッグイシュー台湾版』の販売を勧められ、雲の向こうに青空が垣間見えたような気持ちになったという。「『雑誌が売れる、これで人生の目標ができた』と思いましたね。販売に携わるのは、ただ〝仕事をする〟とか〝生活費を支払う〟という以上の意味を持つことなんです。私にとっては180度の方向転換でした」
 販売を始めて5年以上が経つ彼女だが、路上では良いことも悪いことも経験した。心ない視線を向けてくる通行人もおり、「そのたびに傷ついていましたね」とホーは振り返る。
 一方で首都・台北のような大都市では、心躍る出会いもあった。「新北市の永和区に勤める会社員のお得意さんがいるんです。初めは攻撃的だった人が、知り合いになるにつれ柔らかい態度に変わっていったこともあります」。売り場近くの小学校の先生たちも、帰宅途中に彼女のところへ寄って会話を楽しむという。
 しかし、ここ数年はコロナ禍による販売への影響に悩まされてきた。「雑誌販売の収入と政府からの補助金がありましたが、それでもどうやって生計を立てていこうかと苦しみましたね」
 サングラス越しの視線からは、人生の大きな苦境をホーがどのようにくぐり抜けてきたのか想像するのは難しい。「ポジティブな気持ちを保って、そのような困難を乗り越えてきたのですか」と尋ねてみたが、彼女は黙ったままだ。
「状況をきちんと把握しなければ、前には進めないでしょうね」。そう言ってホーは、これまで手を差し伸べてくれた人々や団体の名前を挙げた。支援団体、地域の教会、ビッグイシュー。そして人生のさまざまな局面でサポートし続けてくれた友人たち。「こんなにたくさんの人たちに助けられてきたなんて、なんて幸運だったんでしょう」
 そしてこう付け加えた。「ポジティブに考えることではなく、〝感謝の気持ち〟ね。私を前向きにしてくれたのは」。そばで支えてくれる人たちとともに、彼女は今日も暮らしを営んでいく。


※ ヘモグロビンを形成する4つのアミノ酸の鎖のうち、1つの鎖の産生が不均衡なために生じる遺伝性疾患群。貧血や黄疸、肝機能障害などの症状が発生する。

『ビッグイシュー台湾版』
1冊の値段/100台湾元(そのうち50台湾元が販売者の収入に)
発行頻度/月刊
販売場所/台北、桃園、高雄など

Text:Tzu-hua Chen, Verymulan/The Big Issue Taiwan/INSP」
Photo: Tzu-hua Chen/Verymulan

(Photoキャプション)
台北市・忠孝新生駅前で販売するフースイ・ホー

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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