販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
『リティネレール』元販売者 ダニエル・プリンス
多くの人の助けによって、生きる気力を取り戻した
今年、販売管理担当として就職
人生の悪循環に陥ったのは、薬物が原因でした。失業し、薬物から抜け出せたと思ったら、また手を出してしまい、そして逮捕——。私はローレンシャン山地を去り、モントリオールに向かうことを決めました。そしてそこから私のホームレス生活が始まりました。
モントリオールに着いた直後から、どこで食べ物を得て、どこで寝るのか思案しなければなりませんでした。最初の夜はチャリティ団体「ウェルカム・ホーム・ミッション」で食事を得て、シャワーを浴び、床につきました。「なぜこんな状況になっているんだ。どうやったらこの地獄から抜け出せるんだろう」とそればかり考えていましたね。
翌朝5時45分に起きると、7時にはシェルターを出なければなりません。それに1つのシェルターには15日間しか滞在できませんから、気持ちが落ち着いたことはありませんでした。
そんなある日のこと、知人が『リティネレール』のことを教えてくれました。わらにもすがる気持ちで事務所を訪れ、販売者登録をしました。
5冊を無料で受け取ると、なんと10分ほどで売り切れに。すぐに事務所へ戻って、さらに10冊を仕入れました。地下鉄のスクエア・ヴィクトリア駅前での販売はラッシュアワー時が勝負です。その後はモン・ロワイヤルとファーブル駅の角に移動してフルタイムで販売を続けました。
2018年には、きょうだいのガエタンとともに『リティネレール』の助成を受けてアパートに入ることができました。550ドルの家賃が248ドルの支払いで済むため、とても助かりました。これでやっと、無料の食べ物のために列に並ぶ生活から解放されました。
ですが19年末にはガエタンが亡くなり、私にとっては大きな打撃となりました。その後、コロナ禍、愛猫ドゥドゥーヌの死が相次ぎ、私は深いうつ状態へと入っていきました。世界が崩壊したようでしたね。
ある朝『リティネレール』に電話をして自分の心情を説明すると、すぐに支援者が駆けつけてくれました。多くの人の助けによって、私は生きる気力を取り戻し、今に至ります。数ヵ月後には販売者代表にも選ばれ、自信を取り戻しました。
そして私の働きぶりを見ていたスタッフが、販売管理担当として、雇用関係を結ばないかと打診してくれました。驚きましたね! また正規の仕事に就けるなんて!
2022年3月7日。忘れもしません、販売管理担当の仕事を始めた最初の日です。机に座って仕事をしていると、生き返ったような気持ちになりました。将来のことを思い描く余裕も出てきました。
私のことを信じてくれた『リティネレール』、励まし続けてくれたお客さんたちに、心からの感謝を捧げたいと思います。
Text:Daniel Prince, L’Itinéraire / INSP
『L’Itinéraire』
1冊の値段/3カナダドル(そのうち1.5ドルが販売者の収入に)
発行頻度/月2回刊
販売場所/ケベック州モントリオール
Photo:L’Itinéraire
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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