販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

米国・シアトル『リアル・チェンジ』販売者 デビー・ニコルス

仲間の販売者の投票で、今年“最優秀販売者”に
人生の節目にふさわしい栄誉

米国・シアトル『リアル・チェンジ』販売者 デビー・ニコルス

3人兄弟、4人姉妹に囲まれて育った『リアル・チェンジ』販売者のデビー・ニコルスは、目立つ子どもだったという。「そうね、ちょっと変わった子どもだったかもしれない」と笑いながら昔を振り返る。
 1990年代の終わりには定職に就いていて、コミュニティの活動にも積極的だった。だが、パートナーからの暴力と薬物への依存によって次第に人生が蝕まれていったという。
 しかし08年、米国・シアトルで販売されているストリート紙『リアル・チェンジ』と出合ってからは、自分らしい歩みに戻りつつある。「今では日曜日は教会に行き、青空市に寄って家に帰る日々です」。そう語るニコルスは今年、数々の人生の苦境を乗り越え、助けを求めるのに遅すぎることはないということを証明したとして同紙の〝最優秀販売者〟に選ばれた。
 毎年、〝最優秀販売者〟は仲間の販売者たちによる投票で決まるが、ニコルスにとってこの選出がもつ意味は大きい。「正しい道に戻ってこられたことを示すものであり、このまま前に進んでいけばよいと勇気づけてくれるものだった」と彼女は言う。薬物を断って3年が経ち、人生の節目にふさわしい栄誉を手にした。「とてもいい気持ちです。『リアル・チェンジ』と出合って、自分の人生を好転させることができたと認めてもらったようなものだから」
 とりわけ大切な思い出は、お客さんとの会話だ。自分の歩んできた軌跡について語ることで、ホームレス状態や貧困に関するデータや統計など数字で示される実態からはうかがい知れないものを分かち合うことができた。
「お客さんは『リアル・チェンジ』を気に入って読んでくれているみたいです。他の一般紙では得られない情報や洞察を得ることができるからでしょうね。同時に私自身は『リアル・チェンジ』によって仕事を得られたことに感謝しています。生きる動機や目標を与えてくれて、人々との語らいの輪の中にまた連れ戻してくれた」
 実はニコルスは12歳の時に、単語の綴りの正確さを競う国の大会「スペリング・ビー」に出場したことがある。今も詩や小説を書いたりすることが好きで、いつの日か『レ・ミゼラブル』のミュージカルを観に行きたいと思っている。それまでは、数ヵ月前に中古品店で見つけたカセットテープで『レ・ミゼラブル』を楽しむ日々だ。
 ニコルスには夢がある。もう少し安定した生活ができるようになること。詩や、子ども向けの短い小説を執筆すること。そして、食べ物にまつわる小商いをすることだ。
「まずは屋台から始めて、それからキッチンカーでと考えているんです。季節に応じていろんなものを提供したい。ココアにコーヒーに、ビスコッティ、スコーン……寒くなってきたら温かいスープをね」

※デビー・ニコルスは2021年の「Vendors of the Year」で2人のうちの1人に選ばれた

『Real Change』
1冊の値段/2ドル
(そのうち1ドル40セントが販売者の収入に) 
発行頻度/週刊  
販売場所/シアトル

Text:Samira George, Real Change/INSP

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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