販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
オーストリア『マリー』販売者
“オーストリアのお母さん”とともに過ごした4年半 その学びを、誰も僕から奪うことはできない

ケネス ソマンディナ・イフェシナチ・オコエが、生活の再建を求めてナイジェリアからオーストリアへ逃げてきたのは、2015年のことだった。オーストリアで彼はケネスと呼ばれるようになり、一人の女性と出会った。
それが、現在89歳になるエルスベスだ。彼女は当時を振り返り、こう語る。「あれは16年3月のこと、ケネスはコプラッハ(※1)のスーパーの前で『マリー』誌を販売していたんです。初めは、英語で少し言葉を交わしました」 3日後にまたそのスーパーに行くと、擦り切れたズボンと靴を履いたケネスを再び見つけた。「ケネスのことをだいぶ前から知っているような気になったんです。ある日『あなたは、私のお母さんのようです』なんて言われるから、こう返しました。『私はもう86歳なのよ。だからお母さんじゃなくて、おばあちゃんじゃない』って」
ケネスも、あの日のことをよく覚えていると言う。「初めてエルスベスと会った時、彼...


文:Frank Andres, marie/INSP/八鍬加容子
メインPhoto: Frank Andres (脚注)
※1 オーストリア最西部、スイスとの国境近くにある町。リヒテンシュタインにも近い。
※2 ナイジェリアの過激派組織。数々の襲撃、テロ行為などで知られる。
『マリー』誌が販売されているフォアアールベルク州。コプラッハは郊外の町
Photo:Nataliia Sokolovska / Shutterstock.com
(雑誌情報) 『マリー(marie)』 1冊の値段/2.8ユーロ(そのうち1.4ユーロが販売者の収入に)
発行回数/月刊
販売場所/フォアアールベルク州
〈お詫びと訂正〉381号(4月15日発売)で、3段目の4行目に「副作用」とあるのは「合併症」の誤りでした。
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
この記事が掲載されている BIG ISSUE

383 号(2020/05/15発売)
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