販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

『ビッグイシュー・オーストラリア』 販売者 トレバー

炎の壁、灰色の「煙の柱」 過去最悪の森林火災、水不足や干ばつも心配。救いは、久しぶりに見た鳥たちの姿

『ビッグイシュー・オーストラリア』 販売者 トレバー

オーストラリアでは、南東部を中心に昨年9月から続く大規模な森林火災(※)で約3千棟の家屋が焼失し、住み慣れた街を離れる人も後を絶たない。『ビッグイシュー・オーストラリア』の販売者で、被害が深刻なニューサウスウェールズ州の山間部に住むトレバーが、付近の状況について話してくれた。彼がこの仕事を始めたのは14年前。妻と出会ったのも雑誌の販売中だった。

私はニューサウスウェールズ州ブルー・マウンテンズの町マウント・ビクトリアに住んでいます。6年前にも、(自宅から)わずか800m先のマウント・ヨーク・ロードの周辺が森林火災に見舞われました。今回も同じエリアが火の海に包まれ、道路は閉鎖されています。カトゥーンバやブラックヒースなどの地域で被害が大きく、避難を余儀なくされた人々もいます。私たちも緊急避難指示に備え、衣類や大切な写真、書類などの荷物をまとめ、妻の友人に預かってもらっています。
予想のつかない状況に、不安を感じています。特にクリスマス前の土曜日は一日中風が強く、煙が日差しをさえぎって真っ暗になりました。妻と家にいた私は、舞い上がる火の粉と真っ黒な煙を目にしながら「どうかここまで迫って来ませんように」と心の中で祈っていました。その日はかなり暑く、気温は40度を超え、火の手は北の方から迫っていました。あえて言葉で説明するならば、「炎の壁が北の空に立ちはだかっているよう」でした。灰色の「煙の柱」が空に浮かぶ光景には目を疑いました。本当に恐ろしかった。
家を閉め切っても、煙は隙間から忍び込んできたのです。煙は何週間も空を覆っています。ここ数日は少し落ち着いていましたが、天気が回復するとまた元に戻ってしまいました。火の手は今も広がっているので、不安は消えません。昨夜は雷雨でしたが、雷は火災が拡大する原因になります。火が完全に消え去るまでは落ち着いていられません。私たちは引き続き、いつでも逃げられる準備をしています。
ここ1週間は、以前より鳥たちをよく見るようになったのが救いですね。久しく目にしなかったクロオウムもいました。妻のエレンは、隣の家のベランダに来ているコトドリを見たそうです。鳥たちは、火の手を逃れてここに戻ってきたのです。
周辺の地域では、誰もが不安な日々を送っています。私が『ビッグイシュー』を販売している町カトゥーンバでは、みんな雨期を待ち望んでいます。(森林火災は)観光業界にもダメージを与えていて、 実際、観光客はほとんど見かけません。煙は目に染みるだけでなく、肺にも入ってきます。州内の水不足や干ばつも心配で、 食品価格はまた値上がりしました。
今年の森林火災は、過去最悪の事態になっています。この地球に生まれて63年になりますが、こんな光景は初めてです。きょうだいがここから6時間かかるオメオ(ビクトリア州)に住んでいますが、そこも火災に見舞われました。この夏を乗り切るまであと1ヵ月以上。不安な日々はまだ続きます。

(The Big Issue Australia)

※ これまでに焼失した森林は、日本の面積のほぼ半分に相当。少なくとも28人が死亡した。

この記事は、今年1月初旬のインタビューをもとに構成しました

Photo: Peter Holcroft

『ビッグイシュー・オーストラリア』
●1冊の値段/9オーストラリアドル(そのうち4.5ドルが販売者の収入に)
●発行頻度/隔週
●販売場所/シドニー、メルボルンをはじめ全土の主要都市

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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