販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

スウェーデン『ファクトゥム』誌 販売者  フロリン&トゥドラ

ルーマニアからスウェーデンまで出稼ぎ、路上生活。「自分の家」を建てるも、娘の精神状態が心配

スウェーデン『ファクトゥム』誌 販売者  フロリン&トゥドラ

スウェーデン第二の都市ヨーテボリでストリート誌『ファクトゥム』を販売する夫婦フロリンとトゥドラは、ルーマニア南東部のスクテルニチ地区からバスなどを乗り継いで北欧に向かう。その距離、実に2500㎞。4人の子どもたちを故郷に置き、いくつもの国を越えなければならないほど、彼らの地元には仕事がない。
気温マイナス8度という寒さの中、2人が『ファクトゥム』を販売して貯めた資金で建てたという故郷の家に到着した。何年か前までは、隣に住むフロリンの両親の家に一部屋を借りていたという。今ではグレーの漆喰壁に3つの小さな部屋があるシンプルなつくりだが、「自分たちの家」がある。
スクテルニチ地区は、住民約2300人のほとんどが無職だ。「子どもの頃は医者になりたいと思っていましたが、医者どころか、他の仕事に就くこともできませんでした。子どもたちも夢を持っていますが、ルーマニアでは食べていけないでしょう」と妻のトゥドラは話す。
「この地区には老朽化し壊れたままの家が多く、子どもたちは空腹や寒さに耐えながら生活しています。学校では教育費は無償なはずなのに、毎週のように『運営経費』が徴収されます。私たち親がここに留まっていては、子どもは学校に行けず、家族はみな飢えて凍えるだけなのです」
トゥドラはヨーテボリにいる間、昼間は雑誌の販売者として、夜間は市内の高級ホテルのレストランで清掃の仕事をしている。教会の入り口など路上で寝泊まりしているが、喧嘩や強盗は日常茶飯事で、体調を崩したり襲われたりするリスクが常につきまとう。「何度も恐ろしい経験をしていて、一睡もできないこともあります。ですから、夜はなるべく顔見知りの販売者たちの近くで過ごすようにしています」
レストランの仕事では、14日間連続勤務という最も長かったシフトで3千ユーロ(約39万円)稼ぐこともあった。ところが報酬は相応金額の「空き缶」で渡されるため、毎回勤務の後に空き缶を回収機に投入し、夜通し現金化する作業をしなければならない(※)。
生活のためとはいえ、子どもたちを残して遠い地へ出稼ぎに行かねばならないのは、毎回苦渋の決断だ。今一番の心配事は子どもの精神状態で「娘のアンドレアは、私たちがスウェーデンに出て不在になると、精神状態がひどく崩れてしまいます。うつ状態になり、自傷行為を繰り返すのです」。トゥドラはそう話しながら涙声になり、涙が頬をつたった。
「二拠点の生活はどちらも厳しいですが、ヨーテボリで得た収入によって、日中にストーブを使う余裕ができたり、トイレの設備を購入することができました」。トイレ設備はまだ部屋の隅に置かれたままだが、次はトイレ用の別室を作るのが目標だという。
 別れ際、私たちが持参した衣服と靴の中から何枚かを選ぶように促すと、トゥドラは2つだけ手に取った。「これからマルギネヌ村に行くのでしょう?」と尋ねる。「あそこの村の人々はここよりももっと貧しいのです。彼らにあげてください。私たちには、少なくとも自分の家がありますから」

(Malin Clausson, faktum / INSP)
※ スウェーデン政府が実施する空き缶・空き瓶デポジット制度

(Photos:Mario Phrat)

『ファクトゥム(faktum)』 
●1冊の値段/60スウェーデン・クローナ(そのうち半分が販売者の収入に)
●販売回数/月刊
●販売場所/ヨーテボリなど、イェータランド県の数都市

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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