販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

オーストリア、『アウグスティーン』販売者 チオマ

ナイジェリアから呼び寄せた娘は 来年、ギムナジウムを卒業予定。 この仕事のおかげで、オーストリア人の友人ができた

オーストリア、『アウグスティーン』販売者 チオマ

 彼女の名前はチオマ。「聞きなれない響きでしょう?」とは本人の弁だ。アフリカ出身のチオマは、ヨーロッパ随一の音楽と芸術の都、ウィーンを拠点にするストリート誌『アウグスティーン』のベテラン販売者だ。
「私はナイジェリア生まれで、初めてオーストリアの土を踏んだのは10年前のことです。このウィーンの空港に降り立ちました。ウィーンに到着してから、ナイジェリアに残してきた私の娘を呼び寄せたのですが、その手続きはとても困難で、費用の負担も大変でした」
「今、娘は18歳になり、ドイツの中等学校であるギムナジウムに通っています。来年、卒業試験を受ける予定です。娘は流暢なドイツ語をしゃべりますが、家での会話は英語です」
 イギリスの旧植民地であるナイジェリアでは、英語が公用語。ドイツ語のクラスにも通っていたが、いまだに英語の方が得意なのだとチオマは言う。
「ナイジェリアでは、縫製工場で働いていましたが、もうずいぶん昔のこと。今ではミシンの扱い方をすっかり忘れてしまいました」
 彼女がウィーン西駅で『アウグスティーン』の販売を始めてから、7、8年になる。ウィーン西駅は、2011年に大規模な修復・拡張工事が終わり、バーンホフ・シティ(駅の街)と呼ばれるエリアがオープン。今ではオーストリアで最も美しい駅との評価も受けるが、チオマの毎日にはそれほど大きな変化はなかったと言う。
「主なお客さんたちは、ずっと変わらず買い続けてくれていて、それが私にとってはとても大切なことなんです。この仕事のおかげで、交友関係がアフリカ人だけに限定されず、たくさんのオーストリア人とつながることができました。現在、私の友人や知り合いの約半分が白人だと思います」
「初めは、黒い肌の私が路上に立ち、ストリート・ペーパーを売ることに強いストレスを感じていました。通り過ぎる人たちから『自分の国に帰れ』『お前のやってることは、本当の仕事じゃない』というような、心ない言葉を投げつけられるのに耐えなければいけなかったんです。けれど、時間がたつにつれて、本当に優しくて親切な人たちに出会うことができました。私が病気でしばらくの間販売に立てなかった時には、何人ものお客さんが心配してアウグスティーンの事務所まで問い合わせてくれたんです。特に親しくしてもらっているお客さんたちは、私の娘にもクリスマスプレゼントを贈ってくれるんですよ!」
「私にとって、イエス・キリストはとても大切な存在で、毎週日曜には欠かさず教会に通っています。教会から帰ったら、のんびりとリラックスして、次の週の始まりに備えるんです」

(Augustin, www.INSP.ngo) Photo: Andreas Hennefeld 『アウグスティーン』 ●1冊の値段/2.5ユーロ(約320円)。そのうち1.25ユーロが販売者の収入に。 ●発行回数/月刊 ●販売場所/ウィーン

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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