販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

米国・テネシー州ナッシュビル、『コントリビューター』販売者ヴィッキー

元夫のカルト入信、がんの再発、トレーラー暮らし…… すべての経験を通し、あきらめないことを学んだ

米国・テネシー州ナッシュビル、『コントリビューター』販売者ヴィッキー

「私がこうして路上に立つのは、家族を養うため」とヴィッキーは言った。彼女は現在、母親と二人の子どもと一緒にトレーラーハウスで暮らしながら、イースト・ナッシュビルにあるスーパーマーケット「クローガー」の前で『コントリビューター』を販売している。
「販売の仕事で好きなのは、大勢の人と出会えること、自分のスケジュールを決められるところ、くびになる心配をしなくていいところ。私は病気持ちなので、普通の仕事なら解雇されていたでしょう。
複数の仕事の面接に落ちた後、昨年8月に販売者になったヴィッキー。そんな彼女をたくさんの町の人たちが応援している。「私を探して、見当たらないとどこに行っていたのか聞いてくれるお客さんたちがいます。教会にも誘ってくれて、今では一緒に通っています」
『コントリビューター』が拠点を置くナッシュビルは、多くのミュージシャンを輩出したカントリー・ミュージックの聖地。ヴィッキーの楽しみも、音楽を聴くことだという。
「特に、子どもの頃からジョージ・ストレイトが大のお気に入りで、私は彼の音楽を聴いて育ったようなものです。彼は本物。花火や派手な照明なんかで演出したり、ダンサーに囲まれたりする必要なんてない。ただ、歌いさえすれば、聴衆は満ち足りるんです」
そんなヴィッキーの幼少期は、孤独なものだったそうだ。「いつも一人ぼっちでした。家族は喧嘩ばかりで、私は二階の自分の部屋に閉じこもり、ラジオを聴いていました。父は私が子どもの頃に心臓発作で亡くなり、私は18歳で結婚しました」
しかし結婚生活は、夫がカルト宗教に入信したことを機に、苦しいものに変わった。「その宗教では、女は男の言うことを聞くようにと教えており、夫が私と子どもたちを虐待するようになったんです。キリスト教会の人が私たちを助け出し、母のところへ連れて行ってくれました。その後、州の福祉職員が私たちを隠れ家にかくまってくれました。というのは夫が娘に、私たちを殺してやると脅してきたからです」
「他の居場所が見つかるまでの3ヵ月間、その隠れ家で過ごしましたが、私は子どもをベビーシッターに預けて仕事をしたいと思っていたので、結局は母のいる実家に戻りました。でも私の兄が、私たちが実家に住むことを許さなかったため、しかたなく州の児童養護システムに預かってもらうようにお願いしました。子どもたちをこのごたごたに巻き込みたくなかったのです。 州は2年の間、子どもたちを保護してくれました」
その子どもの存在こそ、ヴィッキーが仕事をする最大のモチベーションになっている。
「子どもたちの世話をしたいという気持ち、今でも養えるんだとみなに証明したいという気持ちです。彼らは何があっても母親を愛し、受け入れてくれますから」
最近、ヴィッキーにがんの再発が見つかった。「最初にがんになったのは子宮頸部でしたが、今回は卵巣にがんが見つかってしまいました。同時に脳にも影が見つかったんです」
それでも、これまでのすべての経験を通し、希望と勇気を持ち、あきらめないことを学んだという。「大きな家や高価な品物に囲まれた友達を見て、私にもいつかそういうものを手にする時が来るのだろうかと泣いてしまう日もあります。でも、私は高価なものは要りません。ただ“ホーム”がほしいんです」
ヴィッキーに、5年後の自分を予想してもらった。
「ただ健康で、ハッピーでいたい。ハッピーでいる限り、お金のことは気になりません。いつか、よい人に出会えたら、再婚したいとも思っています」

(Amelia Ferrell Knisley, The Contributor)


『コントリビューター』
1冊の値段/2ドル(約220円)で、そのうち1ドル25セントが販売者の収入に。
販売回数/週刊
販売場所/テネシー州ナッシュビル

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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