販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
ノルウェー『=Oslo(エルリック・オスロ)』販売者 ラッセ・アンドレーアセン
ドラッグとアルコールの依存症だけど、今は立ち直ろうとしているところで、いい仲間もいる
ラッセ・アンドレーアセンの人生は、20年間に及ぶドラッグ依存のせいで破滅状態だった。だが33歳の今、ドラッグを断ち、オスロでストリートペーパーの販売者という仕事についている。
『=Oslo』のソーシャルワーカーである筆者は、ラッセのことをしばらく前から知っていた。私たちはオスロのほぼ同じ地区の出身で、彼が普段『=Oslo』誌を売っているのは、私がいつも買い物をしている店の隣だ。雑誌を掲げていなければ、よくいる(少しばかり生意気な)オスロ郊外育ちの若者の一人で十分に通るだろう。いつも髪を整え、しゃれた服を着て、気取った笑みを浮かべている。
まず、簡単な自己紹介をしてくれるように頼んだ。
「名前はラッセ・アンドレーアセン。33歳。ドラッグとアルコールの依存症で、家族からはやっかい者だと思われている。だけど、今は立ち直ろうとしているところで、いい仲間もいるよ」
「電気技師になるつもりでオスロ商船学校に入学したけれど、ちょうど半年たった頃、警察が学校におれを探しに来たのがきっかけで退学した。それまでにつまらない悪事をいくつか働いていて、警察にちょっとした嘘をついたこともあったかもしれない」
事務所にやってくる時、ラッセはいつも笑顔で冗談をとばして、挨拶を欠かさない。だが、面とむかって話をしてみると、はじめて彼の内面の不安や暗い一面に気がついた。濃茶色の目には悲しみが隠れているが、笑みが消えることはない。
「20代半ばに、いくつか仕事についた。どの仕事も建設現場の仕事だったけれど、いつもバカをやらかしてしまった。ドラッグのせいさ。これまでついた仕事はすべて、そうやって失ってしまった」
「それで、友達の一人が『=Oslo』を勧めてくれた。不思議なことに、始めるとすぐにうまくいったんだ。お客さんもいい人ばかりだし。ドラッグをやめると、他の仕事が見つかって『=Oslo』から遠ざかる。でも、結局はいつも戻ってきた。どんなにひどい状況でも、おれが何をしでかしても、『=Olso』は何も聞かずに迎え入れてくれるとわかっていたから」
平均よりちょっとパーティ好きなだけの、ごく普通の少年だったというラッセ。初めてマリファナを吸ったのは13歳の時で、17歳でヘロインを知った。ドラッグがどれほど危険で依存性があるものかわかっていたのに、なぜ手を出してしまったのだろうか。
ラッセは目をそらし、その日はじめて「答えにくいな」と言った。それでも、考えられる理由を話してくれた。
「理由の一つは、ドラッグをやっていればADHD(注意欠陥・多動性障害)をコントロールできるからだ。周りのことを気にせずにすむ。それから、好奇心。白状すればね。17歳だったら興味があって当然だろう。それに、当時はドラッグが簡単に手に入ったんだ」
今は、ノルウェー労働福祉局の就業スキル向上プログラムに参加していて、また建設現場の仕事に復帰したいと彼は言う。ここで、このインタビューが『=Oslo』に掲載予定であること、宣伝のためウェブサイトに彼の写真を使うことを伝え、不安はないかと尋ねた。
「自分の写真を見るのは大丈夫。今では、自分自身を受け入れられるようになったから。ドラッグ使用について話すのも、写真が雑誌に掲載されるのも問題ないよ。でも、鏡に映る自分の姿を見るのは我慢できないんだ」
そう言いながらも、笑顔のままだった。そこで、彼に最後の質問をした。鏡を見るのがいやな理由は?
「今でも自分のことを恥じているからだろうね。親や家族、友人たちに与えた痛みを思うと恥ずかしくてたまらない。薬でハイになっている時には忘れているんだけれど」
インタビューを終えたラッセは、また売り場に戻ると言う。部屋を出る彼の背中に向けて、「雑誌が売れるといいね」と声をかけた。すると、ラッセは振り向いて、笑顔で言った。「ハグするのを忘れるところだった。こっちに来てくれよ!」
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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