販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

米国オクラホマ州、『ザ・カーブサイド・クロニクル』販売者 ケビン

人生が好きになれず、5回も自殺を試みた。やっと心の病気とのつき合い方を学ぶことができた

米国オクラホマ州、『ザ・カーブサイド・クロニクル』販売者 ケビン

『ザ・カーブサイド・クロニクル』を販売するケビン(43歳)は、双極性障害と統合失調症と共に生きる彼の人生に関して率直な話をしてくれた。全米ホームレス連合によると、米国でホームレス状態にある人のうち、20~25%が何らかの精神的な障害を抱えているとされる。
「私はオクラホマ州のアードモアで育ちました。父は退役した元兵士でアルコール依存症、いつも酔ってはベトナムの話をしていました。両親は離婚し、子どもの頃は何度も母のいるオクラホマシティとアードモアを行ったり来たりしていました」
ケビンは子ども時代の20年間ずっと、自分の母親が再婚相手をふくめパートナーから暴力を受けているのを見て育ったと言う。
「後になって考えてみると、自分も犠牲者だったと気づいたんです。父親に握りこぶしで殴られたり。家族ぐるみのつき合いの知人の男性から性的虐待も受けました。それは私が7歳の頃に始まって1年ほど続き、混乱させられました。自分が何か悪いことをしたのだと思っていましたから。私は心の中にたくさんの憎悪を抱えながら成長したのです」
学校では活発に過ごしていたが、14歳になると問題が出てきた。不安発作がおき、いつも被害妄想に取り憑かれるようになったという。ケビンは24歳の時に大きな発作を起こし、初めて精神病の診断を受ける。入院し、薬物治療を受けていったんは落ち着いたものの、回復しては薬を中断して、症状を悪化させることの繰り返しだった。
「薬を飲むのをやめてしまう気持ちを説明するのは難しいんですけど、たぶん私と同じ病気を経験した人はわかると思う。薬には副作用もあるんです。身体が本当にだるく、眠くて、いつも疲れているような感じになる。食欲も増してしまうから、50キロ近くも体重が増えたこともあります」
「薬を飲まず自分で対処しようとすると、アルコールが唯一の方法だった」と、徐々に酒量が増えていったケビン。抑うつのスパイラルに落ち込み、人との関係を断つようになって、4年前、ついにホームレスになってしまった。
「いつも孤独を感じていました。公園や近所の廃屋に住んだり、夜は人目につかない雑木林に寝泊まりすることもありました。目が覚めて公園の雑木林から出てくると、大人たちが子どもを急いで私から引き離そうとする。私のことが怖かったんだと思うけど、つらかった」
ケビンは『ザ・カーブサイド・クロニクル』に出合ったことで、今年の3月、再び屋根の下に戻ることができた。彼は今、オクラホマシティのダウンタウンにあるファースト・ナショナル・ビルディングの前で雑誌を販売している。
「カーブサイドを販売するのは好きです。薬を飲んでいても、以前のようにだるくは感じません。朝は少し鈍く感じるけど、起きて仕事に出かければエネルギーを感じます。人との交流なんて長い間ありませんでしたから、販売を始めた当初はすごく恥ずかしく、おずおずしていましたが、今は誰にでも話しかけられるようになりました」
心の病気を抱えている人について、何を知ってほしいかと尋ねると、「私たちは普通の人間で、普通の暮らしができるということ」とケビンは答える。「私自身も長い間、自分の症状を好きになれず、人生が好きになれず、5回も自殺を試みました。でも、やっと自分の心の病気とのつき合い方を学ぶことができました」
ケビンにとって、未来は始まったばかりだ。 「次の一歩も正しい選択をしたいとだけ考えています。コンピューターか溶接など、技術の専門学校に通って将来の仕事につながればいいと思う。カーブサイドを販売している時に、何人かの方から声をかけてもらい、仕事の選択肢がいくつかあるんですよ。ただ、しっかり落ち着くまでもう少しだけ時間が必要なんです。今まで安定とはほど遠い人生でしたので」


Photo: Sarah Powres

『ザ・カーブサイド・クロニクル』
●1冊の値段/2ドル(約212円)。そのうち1ドル25セントが販売者の収入に
●発行回数/隔月刊
●販売場所/オクラホマ州オクラホマシティ

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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