販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
米国、テネシー州ナッシュビル『コントリビューター』誌販売者 クリスティーナ・F
夫と二人でアラバマに戻り、家族を支える方法を見つけたい
『コントリビューター』の販売を始めて2ヵ月になるクリスティーナ・F。シカゴで生まれ、13歳の時にアラバマ州に引っ越したと話す。
「ここテネシー州には、10年前に夫と2人で越してきました。テネシーで働かせてもらえるという話があったのに、いざ来たら仕事がなかったんです」
「私はアラバマで重度の産後うつ病にかかってしまい、初めての子を手放さなければなりませんでした。それで『思い切ってテネシーに行こう』と二人で決めたんです。新天地で再スタートを切れば、きっとうまくいくと思いました」
ところが仕事の当てがはずれたため、テネシーで生まれた2人目、3人目の子どもも養子に出すことになった。
「1人目の子は自閉症で、夫の両親と一緒にアラバマで暮らしています。他の子たちもオープン・アダプション(※)だから、どんな家族に引き取られているのか知っているし、写真なども送ってもらえるんです」
状況が好転してくると、毎回金銭的な問題が起きてしまう、とクリスティーナ。夫はアラバマにいる時に背骨にけがを負い、また肺と心臓に問題を抱えているため働くことができない。家族を養っているのはクリスティーナで、テネシー州で見つけた仕事を最近解雇され、住まいを失って安ホテルに移ってからも、日雇いの仕事をしてなんとかやりくりしてきたと言う。
「彼を専門医に診てもらうだけの余裕はありません。彼の今の心臓と肺の状態では、バス停まで歩くことすらできず、タクシーに乗って病院へ連れて行くにはお金がかかりすぎます。テンケア(※テネシー州の新メディケイド制度)に申請しようとしたら、また1つの問題にぶつかりました。彼は出生証明書をなくしてしまっていたので、身分証明書と社会保障カードを新たに作り直さなければいけなかったんです」
クリスティーナが夫と出会ったのは、彼女が高校を卒業して間もない頃だった。
「私は当時、支配的な母親から逃れたくて、家を出て友達の家で暮らしていました。ある時パーティに行くと、男友達の一人がコカインか何かをやって、手のつけられない状態になってしまったんです。私がプールにいると彼がやってきて、『(危ないから)家の中には戻らないほうがいいよ』と話しかけてきました。そして、私が誰なのかも知らないのに『僕らと一緒に来る?』と。それでドライブに出かけて、以来22年間、ずっと一緒にいます」
『コントリビューター』誌のことは、町で何度か見かけたことがあったそうだ。
「自分で販売する前は、よく買って読んでいました。今は朝の5~8時ぐらいの間に起きて、スターバックス前から立ち始め、その後にスターバックスとウォルマートの中間辺りに移動します。だいたい家に帰るのは夜7~9時頃です」
まじめに働き、お客さんたちの顔を覚えようと努力しているが、時には嫌な目にあうこともあると言う。
「一番嫌なのは、私たちのことを働いていないと思っている人たちです。『あそこのマクドナルドで求人が出ていたよ』とか『あのレストランでも募集している!』と言われたことがあります。他にも私の顔を見て、恥ずかしいものを見たように首を横に振る人たちも。『私は働いてるのよ』と言いたかった。別に酔っ払ったり、迷惑をかけたりしているわけでもないのに。でも素敵な人たちにもたくさん出会いました」
最近、アラバマから深刻な知らせが届いた。義理の父が末期がんの診断を受けたというのだ。クリスティーナの今の望みは、どうにかして夫と二人でアラバマに戻り、家族を支える方法を見つけることだ。
「でも私の最大の夢は、いつかキャンピングカーを手に入れることです。これがあれば、どこに行っても暮らせますから」
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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