今月の人

デンマーク、『Hus Forbi』販売者 アンドレ・クリスチャンセン

寝袋の一つは、愛犬オーディン用。路上生活の忠実な相棒

デンマーク、『Hus Forbi』販売者 アンドレ・クリスチャンセン

ネアポート駅は、コペンハーゲン市内で最も人通りの多い場所の一つだ。バス、電車、地下鉄がすべてここに集まっている。ここを忙しげに通る多くの買い物客や通勤客は、長四角のメガネをかけ、大きな犬と一緒に座る男性に気づくはずだ。
アンドレは以前、手にカップを持ち、小銭をもらってはその日をしのいでいた。しかし2013年、転機が訪れる。「ある日、Hus Forbiの販売者たちがやって来て、『もっとましな暮らしができるよ』と言ったんだ。以来、彼らは私の同僚になった。今は人に提供するものがあって、もう乞食ではないのがうれしい」と、アンドレ。
アンドレとその忠犬オーディンは、一緒に暮らし始めて3年半になる。「生まれて9週間の時から飼っている、私の忠実な相棒だよ」
アンドレは路上生活の必需品のすべてを、ボーイスカウトのバックパックに入れて持ち歩いている。「背中に小さなバックパックが付いていて、取り外せるようになっているすぐれ物なんだ」。中には寝袋が2つ、マットも2つ入っている。「子ども用の寝袋はオーディン用。私の寝袋は、ノアブロゲーゼ通りの教会でもらったものだ」
「マットの1つは夏用だけど、零下5度の時でも温かく寝られる。もう1つ、軍のマットは零下20度でも大丈夫。膨らませてもいいし、中に湯を入れることもできるんだ」
「私は2010年に離婚した。元妻がアパートに残り私が出た。飲酒と離婚、これが私の人生だ」と、アンドレは言う。「私は生まれつき精神的な問題を抱えていた。ADHD(注意欠陥・多動性障害)、OCD(強迫性障害)、それにPTSD(心的外傷後ストレス障害)の3つの症状があると診断された。2回結婚し、2人の女性との間に3人の子どもがいるよ」
平日の朝は、オーディンと一緒にHus Forbiの販売者用カフェで過ごす。正午になると食事をとり、駅へ雑誌を販売しに行く。「料理人や配管工の訓練を受けたことはあるけど、何かを最後までやり遂げたことはない。ほとんど正常になったと思うたびに、また病気になる、酒を飲む、その繰り返しなんだ。1988年には強盗で有罪になった。それからずっと、刑務所と病院に出たり入ったり。でも、Hus Forbiのカフェでは、ありのままの自分でいられるんだ。カフェは、私にとってアパートや家よりも居心地のよい場所だよ」
それに、アルコールを絶って昨年11月で6ヵ月になった。「あと6ヵ月はシラフで行こうと決めてる。最初は1週間だけ酒なしで行こうと決め、それから、もう少し、もう少し、と伸ばしてきた。私は飲むと乱暴になるんだ」
Hus Forbiの一員になってもう1つよかったことは、子どもたちとまた会えるようになったことだと言う。「この間やっと、3人の子どもたちと一緒に家族写真を撮った。1番上の娘とは4年も会っていなかった。もう1人の娘とは連絡を取り合っていて、路上にも会いに来てくれた。でも、私が酒を飲んでいた間は、家に入れてくれなかった」
「病気がひどかった頃、プロのジャーナリストと一緒にコペンハーゲン市における健康について、市長をインタビューする機会があった。私が自分の状況を訴えると、市長は耳を傾け、私たちがホームレスとして精神科の治療を受ける時に直面する問題について、追跡調査をしてくれたんだ」

『Hus Forbi』
●1冊の値段/20デンマーククローネ(約355円)。そのうち4クローネは付加価値税、8クローネが販売者の収入に。
●発行回数/月刊
●販売場所/コペンハーゲン、オーフス、オーデンセなど、デンマーク各地の主要都市

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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