販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

『ビッグイシュー南アフリカ』販売者、テンバ・ティンジ

南アフリカで開かれた ホームレス・ワールドカップでの勝利。 今思い出しても笑顔がこぼれる、素晴らしい体験だった

『ビッグイシュー南アフリカ』販売者、テンバ・ティンジ

 テンバ・ティンジ(44歳)はビッグイシュー・南アフリカの販売で生計を立てているが、本当に熱中しているのはサッカーだ。ケープタウンの街で9年間雑誌の販売をしてきたが、機会をとらえては、仕事とサッカーを両立させるようにしてきた。2006年と2008年のホームレス・ワールドカップに出場できたのもその成果だ。
 テンバがこの「美しいゲーム」と恋に落ちたのは、13歳の時。南アフリカの東ケープ州にあるタウンシップで成長した彼は、友達やいとこたちとサッカーを始めた。「といっても、物心ついた時からずっとサッカーが好きでした。サッカーは僕が一番好きなスポーツで、これからも変わりません」と彼は言う。
 06年初め、ビッグイシュー販売者にサッカーボールが寄付された。彼らはチームをつくって、何回か気楽なゲームをすることにした。「最初はお遊びだったんです。みんなで集まって、楽しかった少年時代を思い出しながらプレーしていました」。しかしほどなく、南アフリカが第4回のホームレス・ワールドカップ開催国に決まったという一報が舞い込む。
「その知らせを受けて、真剣にサッカーと取り組むと決め、僕たちの挑戦が始まりました。それ以降は、勝利のためにプレーをしました」と、彼は当時を振り返る。
 06年に開かれた第4回ホームレス・ワールドカップには、18ヵ国が参加した。何ヵ月もの練習を終え、各国チームを迎えたビッグイシュー南アフリカの販売者たちは、興奮気味だった。
「僕らは週に2日、猛練習しました。さらに雑誌の販売を終えた夕方も。仲間たちは、練習時間を割いても雑誌販売の収入が減らないように、それぞれ時間をやりくりしたものです。その苦労が実り、記念すべき第1回戦に勝利したんです!」
 今思い出しても笑顔がこぼれる、素晴しい体験だった。「どんなにうれしかったか、言い尽くせません。あの瞬間、みんなが何かを達成した、そんな感じでした。チームメイトと自分自身を誇らしく感じました。本当に祝福に満ちた瞬間でしたね」
 さらに2年後、外国を訪れてみたいというテンバの長年の夢が叶う日が訪れた。08年にオーストラリア・メルボルンで56ヵ国が参加して開催されたホームレス・ワールドカップに、南アフリカ代表選手として選ばれたのだ。
「外国へ行く費用はとても高いし、スポンサーがついてくれなければ、絶対に不可能でしたけれどね。できれば、もっと長いあいだ滞在したかったです。あの経験は何にも代え難いものでした」
 世界中の販売者と出会って、彼らの生活をより知ったことも貴重な思い出だ。
「他の国の販売者も、僕らとそう変わらないことがわかりました。僕らが販売者としてどんな苦労をしているかを知っている人たちと、お互いに交流できたことはよい体験でした」と彼は語る。
 2015年のホームレス・ワールドカップは、9月にオランダ・アムステルダムで開催される予定だ。テンバは今も「美しいゲーム」をしているが、ワールドカップへの出場が、彼のサッカー人生で最も華々しいハイライトだったと彼は思っている。
「僕も今ではすっかり歳をとったから、サッカーをしに遠い外国に出かけた話を子どもたちにしているんですよ」


『ビッグイシュー 南アフリカ』
1冊の値段/20アフリカランド(約190円)で、そのうち10ランドが販売者の収入に。
販売回数/月刊
発行部数/1万3千部
販売場所/ケープタウン

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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