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「ダイバーシティカップ」7月開催に向けて─前編

多様な背景や年齢を超えてつながる、 ストリートサッカーの可能性

「ダイバーシティカップ」7月開催に向けて─前編

ビッグイシュー基金が応援する、ホームレスサッカーチーム「野武士ジャパン」。住居や仕事だけでなく希望を失った人にとって、サッカーは人とのつながりや生きがいを取り戻すきっかけになっている。今年7月には、ホームレスという枠を超えて、若年無業者、うつ病など、さまざまな社会的困難を抱える当事者による「ダイバーシティカップ」を開く予定だ。これに向けて、野武士ジャパンの取り組みを振り返り、参加してきたメンバーやスタッフの声を紹介する。

ワールドカップ出場が人生を変えるチャンスに

 野武士ジャパンが誕生したきっかけは、2003年に始まった「ホームレス・ワールドカップ」(毎年開催)だった。野武士ジャパンはスウェーデン大会(04年)、ミラノ大会(09年)、パリ大会(11年)の3大会に出場した。
 大会への出場は新たな目標となり、自主的な練習を始めるなど、メンバーの意識に大きな変化をもたらすものになった。なかには、渡航のためのパスポート取得の手続きで戸籍を取り戻し、肉親と十数年ぶりの再会を果たした人もいた。
 現地では試合での交流はもちろん、「自分も大変な境遇だと思っていたが、もっと苦労している人たちが笑顔でいた」「フランスのAA(アルコール依存症の自助グループ)の人との交流が、酒をやめるきっかけになった」など、同じ立場だからこその影響も受けた。
 残念ながら、3大会とも自力での一勝をあげることは叶わなかったが、最後まであきらめない姿勢に、会場には「JAPAN !」と温かい声援が響いた。そして、こうした経験がメンバーに自信をもたらし、その後の生活を変えるきっかけになっていった。
サッカーで得た自信が 次へのあと押しになる

 現在、野武士ジャパンの活動は、東京での月2回の練習が中心だ。練習には、ビッグイシュー販売者や元販売者をはじめ、生活困窮者、うつ病などの社会的困難を抱えた若者、大学生、地域住民など、ボランティアを含めると10代から70代までの幅広い人が参加している。
  「身体を動かしてひとつのボールを蹴っている時は、お互いの背景や立場を忘れてしまう」のがサッカー。「もともとサッカーが好きだった」というメンバーは少ないが、参加の理由は、「路上生活が続いて運動不足だった」「ストレス発散のため」「みんなと話すのが楽しくて……」とさまざまだ。
 コーチの指導を受けて、少しずつでも上達していくと自信がついたり、相手を認めたりという変化が表れるようになる。「気に入らないことがあると爆発していたが、感情を制御できるようになった」「なんでもすぐにあきらめてきたが、最後までやりたいと思うようになった」と、その影響は日常生活にも及ぶ。
 また、サッカー練習が次のステップへ進むきっかけになることもある。たとえば、他団体の支援者と練習を通じて知り合い、「あの人のところも信頼できそう」と、基金以外とのつながりを増やしたケースもあった。

「サッカーに参加して、自分の世界が広がった」

 仕事に就きアパートに入居したあとも、5年間ずっと練習に通い続けている元販売者もいる。「シュートを決めればうれしいし、サッカーをしているとわくわくする。ボランティアなど普段は出会わないような人とも話せて、世界が広がった」と話す。
 路上を脱することができた人のなかには、話し相手がなく部屋にこもってしまう人も少なくない。彼らにとっても、月2回のサッカーが居場所となり、生活のメリハリになるようだ。
「一緒にサッカーをすると、一人の仲間としてお互いを見ることができる」というのはメンバーの言葉だが、多様な背景のある人たちとの交流が生まれる場になっている。このような経験から、さまざまな社会的困難を抱える当事者が交流できる場として、「ダイバーシティカップ」の開催を考えている。

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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