販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

『ビッグイシュー オーストラリア版』販売者 タピワ・チェンヘレ

ジンバブエからオーストラリアに。 今ただ、支えてくれるお客さんに、「ありがとう」が言いたい

『ビッグイシュー オーストラリア版』販売者 タピワ・チェンヘレ

「キャンベラにやって来たのは、2005年です」と語るのは『ビッグイシュー オーストラリア版』販売者のタピワ・チェンヘレだ。
 アフリカ南部に位置する故郷ジンバブエは、ムガベ大統領による長期独裁政権により、混乱状態。経済的には超インフレ、貧困が蔓延し、街の治安も悪化している。「街に住んでいましたが、暴力にあふれていました。主要政党を支持するように強いられ、従わなかったために、家を爆破されたり殺されたりした人も見てきました」
 あまりにもひどい状況に、タピワ一家は国外亡命を図る。「母は私たちを連れて、インド洋を渡って、はるばるオーストラリアに渡ってこなければなりませんでした。兄弟3人と妹も一緒にです」
 以降10年弱をかけて、一家はオーストラリアという新天地に根づこうと必死に生活を営んできた。でも、「母はこの9月、親族を訪ねてアフリカに行ってきました。その際、故郷を思う気持ちが募ったようで、5年以内に帰りたいと言っています」
 キャンベラ到着後すぐに、タピワは高齢者介護の仕事に就いた。しかし大麻をずいぶん吸っていた影響が出て、キャンベラ病院の精神科に入院。その後、失業した。「今はもう大麻はやめています。最後に吸ってから、もう2年が経っています」
 07年からビッグイシューの販売を続けているタピワは「オーストラリアが大好き、ビッグイシューが大好きです」と話す。ビッグイシューのことは若い仕事仲間の友達から教えてもらったという。
 ショッピングモール「キャンベラセンター」で、午前11時から午後2時まで、ビッグイシューを売る。「販売する際には目標を設定し、それが終わると、ネットで商品を売る事業の仕事に向かいます。『じゃあ、またね』と声をかけてくれるお客さんのために、決まった時間に販売場所に立っているんです」。待ってくれる人がいること、また販売場所でのお客さんとのおしゃべりがとても楽しいという。
 最近のもう一つの楽しみは、キャンベラ郊外の森でキャンプをして、野生のウサギやブタを狩ること。「サッカーやF1を観るのも好きですね。僕は、マンチェスター・ユナイテッドのサポーターなんです」
 でもサッカーはもっぱら観るだけにしたいと言う。「ホームレスワールドカップを目指して、何度かストリートサッカーに参加しましたが、十分な体力がないことがわかりました。2時間も走り回るなんて……僕にはちょっと無理でしたね!」と、苦笑い。
 そんなタピワは今、未来に向けて大きな一歩を踏み出そうとしている。「来年、ビジネス情報工学を勉強するため、TAFE(オーストラリアでトップクラスの職業教育訓練校)に出願しています。読み書きに問題はありませんが、単語に関しては助けが必要です。故郷で英語を学んでいましたが、ジンバブエの言葉遣いは、オーストラリアとは違っていますから」
「でも、ビッグイシューのスタッフが、応募書類を書いてくれたり、たくさんサポートしてくれるんですよ」
 今のところ、順調にやっていると思います、と語るタピワ。「お客さんたち、サポートしてくれるお得意さんたちに感謝したいですね。もし時々、私のようにビッグイシューを売っている人に話しかけたり、笑顔でおしゃべりしたりしてくれたなら、もう最高です。だって、そんな一言が、僕たちをとても元気づけてくれますから。僕は今、ただ、支えてくれるお客さんたちみんなに、『ありがとう』とお礼が言いたいんです」

『ビッグイシュー オーストラリア版』
1冊の値段/6豪ドル(約582円)で、
そのうち3豪ドル(約291円)が販売者の収入に。
販売回数/月2回刊
販売場所/メルボルン、キャンベラなど

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

この記事が掲載されている BIG ISSUE

255 号(2015/01/15発売) SOLD OUT

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