販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

スイス『Surprise』販売者、ヘイロム・ゲブレズギャビエル

260の職に応募して165の不採用通知 でも収入を得たら、母を休暇に招きたい

スイス『Surprise』販売者、ヘイロム・ゲブレズギャビエル

「祖国エリトリアを逃げ出して、難民としてスイスにたどり着いたのは2006年12月のことです。その4ヵ月後にストリートペーパー『Surprise』の販売を始めました」と、ヘイロム・ゲブレズギャビエル(30歳)は語り始めた。
「レングガッセ地区のツェーリンガー通りにある大手スーパー、ミグロの前が私の定位置です。近くに住む人たちは、本当にいい人たちでとても親切です。求職申込書の記入を手伝ってくれた男性もいました。できれば、いつか自分もこの界隈に住みたいと思っているんです。今のところ実現には至っていませんが……」
雑誌の販売を始めるとほぼ同時に、『Surprise』のサッカーチームに加わったというヘイロム。「自分たちがやっているのはストリートサッカーです。小さなピッチとゴールがあって選手が3人とゴールキーパーが1人いればプレーできます。夏の間は学校の校庭を借りて毎週水曜日の夜に練習をしています。屋内コートのレンタル料はとても高すぎますから。サッカーシューズでさえ時には悩みの種です。ある時、すごく安いシューズを履いてプレーしたら、試合が終わる頃には完全にボロボロになっていましたよ」と笑う。
子どもの頃はサッカーや自転車に夢中になっていたが、実はヘイロムは、100メートルと200メートルの短距離走者でもある。
「祖国では毎日練習して、国際ランニングチームにも所属していました。自己ベストは10秒75と21秒35です。スイスに来てからも2回競技会に出ました。1回はランゲンタールで、あとの1回はベルンです」
「その後、手術を受けたため本格的な練習はできなくなりましたが、代わりにストリートサッカーに参加することになりました。俊足を買われてスイスの代表チームにまで選出していただき、ミラノで9月に開催されたホームレス・ワールドカップに出場もしたんですよ」
ミラノではさまざまな言語が飛び交い、刺激的な日々を過ごしたという。「私たちは丸々一週間、テントの中で47カ国の人たちと過ごしたんです。ともに、音楽を聞き、踊り、笑いました。私のドイツ語も驚くほど上達しましたよ! チームは38位に終わってしまいましたが、とても素敵な時間でした」 「ワールドカップへの出場は1回だけというルールのため、私は今後の大会には出場できません。ですが、もちろん、自分のチームのために最高の幸運を祈っています。本家のワールドカップのほうもしっかりフォローしていますよ。10年には、アフリカで初めて開催され、本当にうれしかった。いつかエリトリアの代表チームが生まれるかもしれませんよね」
「とりあえず今の私は、ここスイスで『Surprise Lorraine Bern』の主将です。今シーズンはすでに、バーゼル、ベルン、チューリッヒでトーナメントがありました。選手として試合に出られなくなったら、コーチになるかもしれません。ただ、ひとつだけ言っておきたいのは、目の前で試合が繰り広げられているのに黙って脇で観ているというのは私にはほぼ無理だということです!」
『Surprise』の販売とサッカーの練習以外に、職探しにもかなりの時間を費やしていると語る。今まで260の職に応募して165の不採用通知を受け取った。「目下の一番の夢は仕事を見つけることです。ベルンにある学生向け食堂『ラ・クルティナ』で6ヵ月間研修を受け、ビュッフェや給仕の方法、厨房作業全般を学びました。一所懸命働いて相応の収入を得られるようになったら、母を休暇に招きたいですね」と、にっこり笑った。

『Surprise』
1冊の値段/6スイスフラン(約680円)で、そのうち3スイスフランが販売者の収入に。
販売回数/2週間に1回
発行部数/約1万8千部
販売場所/ベルン、チューリッヒなどスイス国内・ドイツ語圏の主要都市

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

この記事が掲載されている BIG ISSUE

241 号(2014/06/15発売) SOLD OUT

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