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「ビッグイシュー南アフリカ」販売者 ツリスワ・ムテンブ

いつも何かに怒り、痛みを抱えていた。 でも、周りの人の力を借りて、自分の人生を変えていく

「ビッグイシュー南アフリカ」販売者  ツリスワ・ムテンブ

ツリスワ・ムテンブは27歳、「ビッグイシュー南アフリカ」の販売者になって2年になる。3年近くホームレス状態を経験したが、現在は自立して2人の息子とともに、ケープタウン近郊のカエリチャで、部屋を借りて暮らしている。
美しく活発なツリスワだが、そのほほ笑みの下には、どこか暗い影が垣間見える。そして実際、彼女はこれまで、さまざまな人生の試練に苦しめられてきた。
「生まれたのは東ケープ州で、祖母に育てられました」と生い立ちを語り始めたツリスワ。「両親は結婚していなかったため、父とは常に縁遠い状態でした。母は私が生まれるとすぐに、町で働くために家を出て行ったので、子ども心に、自分は望まれて生まれたわけではなく、捨てられたのだとずっと感じていました」
14歳の時、祖母が亡くなり、しかたなく母のところへ身を寄せたが、ほとんど他人のように感じられたという。長い間お互いに会うことも話すこともなく、つき合いがなかったからだ。
「覚えているのは、祖母が亡くなってとても悲しかったことと、10代だったので、いつも何かに怒り、痛みを抱えていたことです。すぐに気分が変わり怒りっぽい10代の娘に対して、母は責任をもって受け入れる覚悟ができていなかったのだと思います」
16歳になると、伯父と一緒に暮らすようにと東ケープ州に送り返されたが、叔父も「反抗的なティーンエイジャー」と暮らすことを喜ばなかった。「結局17歳で学校を退学するまで、母と伯父のもとを行ったり来たりしました」
行き場のない思いを抱え、ボーイフレンドと暮らし始めたツリスワ。だが、妊娠がわかるとアパートから追い出されるなど、幾度となく路上生活を経験した。
現在3人の子の母であるツリスワだが、一番の気がかりは、2番目の息子・サヌルのことだ。「サヌルを出産直後、生活の基盤がなかった私は、市役所へ赤ん坊を連れて行き、どんな選択肢があるか相談しました。そして、私が養えないと判断され、市が赤ん坊を引き取ることになってしまいました。私の手元に置けば、家族が路頭に迷うことは目に見えていたからです」
生活を立て直し、息子を取り戻すことを決心した彼女は、その後ビッグイシューのことを知り、事務所にやってきた。「スタッフやソーシャルワーカーの人たちがいろいろと手助けしてくれました。雑誌の販売をしている時は、何もかも忘れることができるので、とても楽しいです。お客さんと接していると、過去のことをくよくよ悩む暇がありませんから。私の人生の悩みについて、お客さんから助言をもらう機会さえあります」
「今は、雑誌の販売とともに2、3軒の家で清掃手伝いもしています。自分と家族のために新しい人生を始める機会を与えてもらってとてもうれしいです」
ツリスワの母親は、2010年エイズのために死亡。彼女はついに、母との関係を修復することができなかった。2人の息子と暮らしているツリスワは、現在サヌルの親権を手に入れる手続きをしている。
「先日サヌルに会いに行くと、もう少しで私と暮らせると知って彼は有頂天でした。ソーシャルワーカーからは、私が子どもを育てる責任を果たせることを証明しなさいと言われています。子どもには母親が必要ですから、がんばるつもりです」
「私の人生はつらいことばかりでした。自分が犯した過ちは、すべて今につながっている気がします。でも、そこからたくさんのことを学んだので、今ではそれでよかったとすら思っているんです。私はこれから、周りの人の力を借りて、自分の人生を変えていこうと思っています」

「ビッグイシュー南アフリカ」
1冊の値段/20南アフリカランド(約190円)で、そのうち10ランドが販売者の収入に。
販売回数/月刊
発行部数/1万3千部
販売場所/ケープタウン

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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