販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

「今月の人」OB編 石田誠さん

人はやっぱり一人では生きていけない。 自分に少しでも余裕が出てきたら誰かを支えたい

「今月の人」OB編  石田誠さん

「お久しぶりです。みなさん、お元気にしてらっしゃいますか」。そう言ってニコッと笑って事務所に現れた石田誠さん(41歳)。現在、大阪府内のスーパーマーケットで商品補充の仕事に就いている。
石田さんは、過去にビッグイシューの販売者を2度経験した。仕事を見つけて一度卒業したものの、「人間関係で少しつまずいてしまって……」と再び販売者に。その2度目の販売場所だったのがJR京橋・京阪京橋の連絡口。「卒業するためにビッグイシューはあると考えていたので、2度目に販売者になった時も早く卒業しなくちゃと思って販売していました」。この頃に西成のドヤの近くにあった教会に通い始め、そこで知り合った人が京橋にある大手衣料品店の店長を紹介してくれた。
「すごく緊張して面接に行ったら、『あなた、京橋駅で雑誌を販売していますよね』って言われてびっくり。きっと落とされるだろうなあと思っていたら、『いつもまじめにがんばっている姿を見ていますよ』と、採用してくださったんです」
石田さんはその衣料品店の大阪・天王寺店にアルバイトで配属された。また、教会の寮に住まわせてもらえることになり、そこから店舗への通勤が始まる。
「不安もあったけど、店長がとても親切に商品の陳列や補充などを指導してくれて、早く仕事を覚えることができました。店頭で、今日はこの商品が限定価格ですよと声を出したり、お客さんとコミュニケーションをとったりというのは、ビッグイシューに似ているところもあって楽しかったですね」
ところが、3年半ほど働いたその店舗が地下街の再開発のために閉店となり、石田さんは職を失ってしまう。しかし、その状況を知った知人が次はスーパーマーケットを紹介してくれた。「また一から仕事を覚えないといけないから、不安はすごくありました。開店前の商品補充が主な仕事で、朝はとにかく忙しい。でも、紹介してくれた知人への感謝の気持ちもあるし、働かなくちゃ生きていけないから、心機一転でがんばることにしました」
しかし、不運はなぜか続いてしまう。このスーパーも1年8ヵ月ほど働いた頃に閉店。ところが今回も、石田さんのまじめな仕事ぶりを見ていてくれた人がいて、他店舗への異動を推薦してくれた。
現在、週に5日のアルバイトスタッフとして勤務。必ず定時より30分前に着くように出社しているという。「そのほうが落ちついて仕事に取りかかれるからかな。僕は毎朝5時に起きて聖書を読んで気持ちを整えているんです。苦しい時に聖書に出合ったから、僕にとっては心の支え。販売者をしていた時もお客さんから応援の声をかけていただいたり、おにぎりを差し入れていただいたり、温かい気持ちをたくさんもらいました。いまだにつまずくことはいろいろあるけど、そういう支えがあるから仕事を続けられているような気がします」
創刊時に販売者となった石田さんは、雑誌が創刊10周年を迎えたことがうれしいと話す。「弱い立場の人に厳しい世の中だし、ホームレスの自立を後押ししてくれるものってあまりない。そんな中でビッグイシューという仕組みがあるというだけで救われる気持ちになる人は僕だけじゃないと思うから」
ホームレス状態を経て仕事に就き、人への感謝の気持ちが増したという石田さん。
「見てくれている人は見てくれている。やけっぱちになったり自分を責めすぎたりせず、前を向かなくちゃいけないと感じました。人はやっぱり一人では生きていけない。弱っている時は誰かに支えてもらうこともあるけれど、自分に少しでも余裕が出てきたら誰かを支えたいと思うんです。そういうことに気づけたのは、ビッグイシューや教会、職場での人とのかかわりがあったから。苦しい思いをしたことを忘れず、これからはどんな状況であっても困っている人がいれば助けてあげられるような人間でありたい」
早くに家族と別れ児童養護施設で育った石田さんは、将来をこう描く。「一人より二人のほうがきっと楽しいと思うので、理解しあえるパートナーと出会って家庭をもてたらいいな」

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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