販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
濱田進さん
働いて、よく眠れるようになった
「この仕事もひとつのサービス業やと思いますね」と語る濱田さんは、『ビッグイシュー日本版』創刊日以来、土日も休日も関係なく、毎朝8時から夕方5時まで、雑誌を売り続けてきた。半月が過ぎる頃から、「朝、雑誌が出ると午後も出るやろうな」とその日の売れ行きを予測できるまでになった。人の流れを予測して雑誌を仕入れ販売する。濱田さんには、一人のプロの販売者としての風情が漂い始めている。
私はボランティアとしてビッグイシューの幟(のぼり)を持って、販売日初日、濱田さんのそばに立った。初めての小売業である。実際あまり売れなかった。うまく声を出せるはずもないと思った。ところがこの1ヶ月で、この変貌ぶりである。
濱田さんが路上で生活を始めたのは、商品管理の仕事をやめ失業保険が切れて半年後の、今年の3月だった。「それはもう一日が長かったですね」と振り返る。空腹でも食べるものがなく、暇でしょうがない。ただ公園で寝て過ごすことも多かったが、よく寝られなかった。「そろそろ働かなあかん」焦りを感じていた濱田さんは、8月にラジオで『ビッグイシュー日本版』の存在を知った。おもしろそうな仕事が始まるな、と思って迷うことなく説明会に参加した。
もともと本好きで、図書館司書の経験もある。一日中立ち詰めの仕事は足が痛むけど、買ってくださるお客様とのコミュニケーションが楽しいと言う。「やっぱり自分が一所懸命声を出すと、お客さんも買ってくれるんですよね。『頑張ってください』と言っていただくと嬉しいですし、僕ら路上におらせてもらってんねんから、遠慮しながら常に感謝の気持ちを忘れずに、でも『私も頑張りますのでお客様も頑張ってください。お互い切磋琢磨して頑張っていきましょう』という気持ちでやっています」。買ってくださる方への感謝の思いとお互いに頑張りましょうという思い。そんな「心のもち方」が大切だと話す。
販売者同士の交流も楽しい。新しく販売者になった後輩には、声の出し方を教えたり、顔を見たら話しかけるようにしているそうだ。販売者同士がお互いに報告しあえる関係を、もっとつくれればと言う。
今もビルの物陰で新聞にくるまって寝るが、よく眠れるようになった。今の目標は、「早く住むところを見つけること」。その日がくれば、住むところが決まったら連絡すると話した家族に連絡できる。目標に向かって、今日も路上に立つ。
(2号より)
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
この記事が掲載されている BIG ISSUE
2 号(2003/11/06発売) SOLD OUT
特集結婚しない若者たち― シングル社会のゆくえ