販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
販売者座談会〈後編〉
日々食べる分稼ぐのも自立。 就職に限らず、起業や農業など、いろんなチャンスがあっていい
40代の販売者さんに「再就職の厳しさ」「仕事とは?」
などについて語り合ってもらった座談会の後編。
読者とのふれあいや街角で見かける若者の就職事情にも話は及びました。
参加者:Iさん、Kさん、Aさん
―みなさんにとって仕事とは?
Aさん ビッグイシューの販売をする前は、仕事っていうのは家賃や光熱費を払ったり、食べたり飲んだり、日常生活を送るために必要なものでした。今も基本的には同じで、自分が食べていくため、生きていくためのもの。次のステップとなる貯金への道のりはまだまだ遠いけどね。
Iさん 生きるため、ご飯を食べるためにするものですね。でも今は毎日が自転車操業。1日休んだら倒れてしまうかもしれない。
Kさん 仕事は生活をしていくための手段かな。家が裕福だったりして働かなくていい環境にあるのなら働く必要はないかもしれない。でも僕は働くしかないし、お金を稼ぐしかない。他に選択肢はないですね。
Iさん 今の仕事はよくも悪くも自分のペースでできるし、毎日の食費はちゃんと稼げる。住所のない状態で働けるという点も助かるし、僕にとっては他の仕事をするよりはがんばりやすい。
Kさん ビッグイシューのことは販売者になる前から知っていて、内容もいいなと感じていたからやってみようと思った。あ、おべっかじゃないですよ(笑)。
―じゃあ、この仕事をしていて楽しいと感じることは?
Iさん 雑誌を買いに来るたびに「兄貴が入院してなあ」「今日、退院してん」と、愚痴も含めていろいろ話をしてくれるお客さんがいてね。話しやすい存在だと感じてくれてるのだとしたらうれしい。
Aさん 僕もお客さんと話をするのがすごく楽しい。今まで孤独だったけど、お客さんやスタッフと世間話したり、冗談言ったり、そういうことがとても心の支えになってる。
Kさん どこの売り場もお客さんは本当に優しいです。それに、最初に事務所を訪れた時のスタッフの対応にもびっくりした。同じ目線で、哀れむでもなく人間扱いしてくれて、すごく感謝してる。
Iさん 販売場所は僕にとっては居場所やね。僕ら、路上で何にもしてない状態だと不信感を抱かれることもあるけど、販売場所に立っていると不信感は抱かれない。そういう場所があるって、大きいよ。
Aさん 僕はお客さんとのコミュニケーションは楽しいんだけど、販売自体は夏は暑いし冬は寒いし、どちらかというと毎日つらく感じてる(笑)。でも生きていくために売らないといけないしね。その中で、「がんばってね」と声をかけられると、すごく励まされる。
Kさん ジョージ・ハリスンの「living in the material world」という曲が大好きなんですけど、これは物質的な幸せよりも精神的な幸せを追求すべきだって歌詞でね。昔はね、車からバイクから携帯電話から、それはいろんなモノに囲まれていたけど、今は何も持っていない。でも、いろんな意味で身軽だし、精神的にも落ち着いてる。
Iさん そういや僕ら全員、「非電化生活」を実践してるよね(笑)。
―“自立”ってどういうことだと思いますか?
Aさん アパートを借りて就職するというのが自立だという人もいるけど、ビッグイシューの販売をして、自分が日々食べる分のお金を稼いでいるのも一種の自立なのかな。
Iさん 誰の世話にもなっていないという意味では自立なのかもしれないね。でも、社会的な権利も失っているし、義務も果たしていない。社会の構成員として考えたら、大きな意味では自立していないんやろうな。
Kさん 僕らもそうだけど、若い人も本当に大変だよね。就職したばかりのある男の子が、学生時代の奨学金の返済が始まるから赤字からのスタートだと言っていて気の毒だった。就職のために留年する人もいるし、新卒至上主義も本当に変!
Iさん 就職活動中の学生さんもよく買いに来てくれるけど、疲れていて本当にかわいそう。あと、美容師になりたての若い子が、美容室の中で働くんじゃなくて駅前で何時間もビラ配り。それじゃ仕事を辞めたくなるよね。
Aさん 若い子が夢をもてない社会ですよね。駅前に一日立っていると、いろんな人間模様が見えてくる。
Iさん 一度レールをはずれて周辺にいっちゃうと中心には戻りにくい。それどころかどんどん外側へと追いやられてしまう。あ、でも、ビッグイシューは辺境の雑誌でいないとね。中心になったら意味がなくなるし。
Kさん やっぱり僕らにもまたチャンスがほしい。会社への就職に限らず、起業や農業とか、いろんなかたちがあっていいですよね。
Iさん お金はないけど、日々雑誌を売って、人と話すことができて、幸せも感じてる。だから希望は失わずに毎日の仕事をがんばって、この積み重ねの向こうに何かが見えたらいいな。
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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