販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

今月の人

なぜ、野宿から畳の上にあがれない?あがらない? ― ビッグイシュー住宅会議(大阪)から

今月の人

冬の厳寒期、野宿する販売者がなぜ畳の上へあがれないのか? 大阪では、昨年12月から「ビッグイシュー住宅会議」が開かれ、 その第2回ミーティングが1月13日、販売者と基金スタッフ、 販売サポートスタッフを交えて行われた。

宿より、きちんとした食事
――アンケート結果

昨年末、大阪の販売者44人の寝場所を調べたところ、アパート16人(うち生活保護9人)、簡易宿泊所14人、ネットカフェ他4人、不明3人、野宿者は7人だった。そこで、野宿している販売者を中心に、スタッフも参加して住宅会議を開催。なぜ、野宿をし、どうしたら畳の上へあがれるのか?野宿者7人にアンケート調査を行うことにした。野宿している販売者のAさんがアンケートのたたき台をつくり、6人から回答があった。
まず、野宿生活で困っていることは、「トイレ問題」「ごみを置いていかれる」「住所が不定であること」。あれば助かるものに、「毛布」「寝袋」「雨対策」などの声があげられた。
では、野宿生活から、住居に入るための一番の障害は何だろうか? 「お金」や「安定した収入」がないことに加え、「売り上げが不安定で不安」など経済的なことのほか、「ドヤ(簡易宿泊所)の生活環境のイメージが悪い」、「いい環境だと自分に甘くなりそう」などがあげられた。
そこで、もし、すべて込みで3万円のアパートがあればいくらの収入で入れると思うか?を聞いてみた。7万円(雑誌440冊分の販売収入)~9万円(約560冊分)あればとの答えだった。一方、野宿に耐えても、優先してお金を使いたいこととしては、きちんとした食事(外食など)が5人、たばこ2人、お酒1人、貯金1人、より多い雑誌の仕入れ1人、その他(販促用備品)2人、となった。
たとえば「安い家賃の住居」があったとして、そこに望む条件として、「利便性」が4人(悪くてもいい人2人)、「設備」は半々に意見が分かれ、「気の合う仲間との同居(グループホームなど)」はいやな人4人(いい人2人)となった。
今の平均的な売り上げに見合い、かつ家賃額が手元にある時、すぐ入居したいか?という問いには、「はい」と「いいえ」がともに3人ずつで、経済的条件が整っても二の足を踏む人が半数いた。その理由は「不安がある(売り上げが安定するかどうか)」「病気になった時」「目標をもたずに入居すると家賃支払い自体が目標になる」「気持ちの整理がついていない」などであった。

畳の上へあがる
いろいろな選択肢があればいい

この結果を受けて、当事者有志とすでに畳にあがった販売者も参加して議論をした。
なぜ、すぐにでも野宿生活からドヤやアパートに入らないのか?「住居があると、緊張感がなくなって、自分に甘くなるなぁ」と言うBさんの意見に対して、Cさんは、「甘えるという言い方は違うんじゃないかな?疲れた身体を休める住居があるのが普通の生活では」と返す。Dさんからは、「グループホームなどに入れそうな人に基金が貸付をするなど、入居をサポートする仕組みがあればいい。住居に入れば販売にも励みができる」という提案も出された。
これに対して、「貸付は返さなければならないから、支払い義務が発生し、家賃支払いが目的になってしまいかねない」という声が複数あがる。スタッフからも、「これまで、お金の工面さえつくなら、何が何でも入居してもらいたいと勧めてきたが、それぞれの考えをよく聞く必要があることがわかった」という意見が出る。
一方で、野宿しているEさんからは、「逆に、基金からこういう方法ならこんなところに入居できますよという、野宿している人への入居の情報やガイドラインのような提案があればいい」という希望が出された。
グループホームについては、「入居者間でもめごとがあると、人間関係にひびが入ってビッグイシューをやめなくてはならない事態にもなりかねない」(Fさん)、「わずらわしいから、外の方がいい」(Gさん)という意見もあったが、「畳の上へあがるいろいろな選択肢もあった方がいいので、要検討」となった。
最も要望が強かったのは「利便性」で、売り場から離れてしまうと交通費がかかる、販売時間が短くなるなど、交通費のかからない市内で探したいと言う人がほとんどだった。
検討課題としては、グループホームや貸付制度、新人販売者への短期間の体験入居として一部屋を1ヵ月10日ずつ3人で借りる「ルームシェア」、体調の悪い時の避難住居、真夏と真冬の期間限定住居などがあがった。早速、2月限定の住居については確保する方向となった。
最後に、年末年始の寒さを避けて短期入居した販売者からの意外な感想は「畳の冷たさに気づいた」だった。それを聞いてみんな大爆笑!その理由は、室内でも暖房がなければ、野宿と変わらないほど寒かったそうで、室内で寝る時に必要な用具のリスト作りも早速始まった。

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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