販売者に会いにゆく (旧・今月の人)

五味川祐太郎さん

ホームレス・ワールドカップで「フェアプレー賞」受賞。仕事を探し、ちゃんと働いて、社会人リーグに入りたい

五味川祐太郎さん

9月、ミラノで開催されたホームレスワールドカップで活躍した日本代表チーム「野武士ジャパン」の最年少メンバー五味川祐太郎(22歳)さん。彼は大会中、紳士的な闘い方をした選手に贈られる「フェアプレー賞」を獲得した。

「ジャパン、ナンバー8って背番号を呼ばれた時は、自分のことだと思わなくて、数秒間、固まっちゃってました。いや本当、人生の中で一番ビックリした瞬間だったんじゃないかな」と五味川さんは振り返る。ファールを一度もしなかったこと、そしてファールを受けても、黙々と耐え、プレーを続けたことが評価されての受賞だった。

サッカー初心者が多い「野武士ジャパン」メンバー中、小5でサッカーをはじめ、中学時代は東京都大会にも出場した経験のある五味川さんはチームの司令塔だ。いつもは新宿駅西口でビッグイシューの販売を行っている。

未だ興奮覚めやらぬミラノでの日々を語る五味川さん。パスポートをとって海外に行ったのは初めてだが、飛行機には数え切れないほど"乗って"きた。

「高校を出て最初に就職したのが大手航空会社のサービス会社だったんです。成田空港に職場があって、国際線の機内クリーニングが主な仕事。1日最低15機は清掃したから、1年半の間にほとんどの路線は経験したんじゃないかな。テロ対策、インフルエンザ対策と最近は清掃一つとっても大変で、ものすごい激務。空き時間には乗客の誘導とか、切符切りとかいろんな仕事があって、空港のソファーで仮眠を取って24時間働きづめなんてこともしょっちゅうでした」

そんな五味川さんにとって、空港や飛行機は夢やあこがれの場所とはほど遠かったに違いない。

「今回初めて"乗客"になったけど、飛行機はやっぱり苦手。裏の裏まで知り尽くしているからなぁ(笑)。仕事がすさまじくて何度もメゲそうになったけど、同期と励ましあって何とか頑張ってたんですよ。でもある日、モウロウとして掃除機を窓に倒しちゃったんです。そのせいで機材が壊れて、離陸できない事態になっちゃって……100万円くらいの損失が出た。それは会社が負担してくれたんだけど、僕は責任を取って辞めることになったんですよ」

突然、仕事を失い、会社の寮を出ることになった五味川さん。依願退職とされ、失業保険も給付されなかった。

「貯金も行くあてもなかったので、小学校から高校卒業までお世話になった児童養護施設へ行きました。そこで電話を借りて就職先を探し、新聞販売所での住み込みの仕事が決まったんです」

朝の2時起きで新聞を配り、夜遅くまで営業や集金にまわる仕事だったが、「空港の仕事に比べたらだいぶ楽でしたよ」と五味川さん。

「でもある時、今でも自分が軽過ぎたと思うんですけど、散髪から戻ってきたお客さんに『髪すっきりしましたね!』って言っちゃったんです。深い意味は全然なかったのに、そのお客さんは激怒されてしまって……それでクビになったんです。いやぁ本当申し訳なかったと思います」

不運な事故、ちょっとした失言……そんなことでクビになるなんて、どれだけアンフェアーな世の中なのかと怒りの拳を振り上げたくなる……が、しかし五味川さんは「自分が蒔いた種だからしょうがないですよ」と笑顔で答えるのだ。どこまでフェアプレーな青年なんだろう!? 

再び行く場所を失った五味川さんは、ネットカフェや路上を転々としながら、半月ほどを過ごす。「仕事を探して歩き続けて……持ち金もゼロになっちゃって。それでまた電話を借りようと養護施設に向かったんです。そこの先生から『路上脱出ガイド』を手渡されて、それでビッグイシューを販売するようになりました。まさかサッカーをやることになるとは思わなかったけどね(笑)」

9月の大会に向けて練習を続けてきた「野武士ジャパン」にとって、またとない戦力となった五味川さん。ワールドカップで一番嬉しかったことは何かたずねると、「(チームメイトの)日高さんがゴールを決めたこと」という答えが返ってきた。日高さんは初戦で脱臼し、戦線を離れていたが、最終のオーストラリア戦で1得点を上げた。「出られただけでもスゴイのに1点取るなんてすげぇ!!って。仲間の活躍が自分のこと以上に嬉しいなんて、なんだか不思議ですよね」

帰国後、五味川さんの自立への目標はぐっと明確かつ具体的になってきた。
「サッカーはこれからも続けていきたい! ホームレスワールドカップには一度しか出られないという決まりがある。だからちゃんと働いて、社会人リーグに入りたい。そのためにはまず仕事探しをしっかりやるつもり」

つい先日、アパートへの入居が決まった五味川さん。サッカーにも、人生にもフェアプレーな彼のこと、いつか必ず、目標を達成するに違いない。

※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。

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