販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
オーストリア『アプロポ』販売者 オクタヴィアン・ティンカ
ルーマニアの、美しい修道院の近くに生まれて
「一つ屋根の下で家族と住めれば、人生は完璧」

ルーマニア南部アルジェシュ県に、中世から伝わる美しい修道院がある。ビザンティン様式の外壁や彫刻に囲まれた建物で、内装にはフレスコ画と複雑なアラベスク装飾があしらわれている。その修道院の近くで、1988年にオクタヴィアンは生まれた。
オーストリアへ出稼ぎに来てからも、彼はザルツブルクにあるルーマニア正教会での礼拝を欠かさない。祈りと聖書を読むことを日課とし、「信仰が私を生き長らえさせてくれるのです」とオクタヴィアンは語る。
しかし永住権がないため、オーストリアでは安定した職に就くことができない。『アプロポ』の雑誌販売を始めて3年になる今も、ガレージの中で寝起きしているせいか、彼の表情には疲労感がにじみ出ている。
故郷には25歳の妻ライサと、7歳のヨアン、4歳のエマヌエル、1歳のダマリスの子どもたちを残してきた。一家はオクタヴィアンの両親が所有する土地に小屋を建てて住み、5人で1つのベッ...

『Apropos』
1冊の値段/3ユーロ(そのうちの半分が販売者の収入に)
発行頻度/月刊
販売場所/ザルツブルク
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
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