販売者に会いにゆく (旧・今月の人)
『ファクトゥム』販売者 マリア
早婚、妊娠、DV、そして外国での路上生活。
過去を振り向かずに生き続けたら、人生が変わった

今年68歳になるマリアは、黒色の長いダウンジャケットを着込み、愛用の買い物カートを傍に置いてスーパーマーケット前の持ち場に立つ。スウェーデン第3の都市マルメで、彼女はこうやって10年間、『ファクトゥム』の雑誌販売を続けてきた。今では、この界隈の住民でマリアを知らない人はいない。
彼女はたまに中古の洋服を買うが、家のタンスにあるのはなぜか黒い服ばかりだ。「若い頃はよく色柄の服を着ていたんだけれどね。淡いグリーン、ピンク、ブルー、パープルとか……。でも今は、そういうものを着ると心が痛むの」
ルーマニア出身のマリアは、13歳の時に4歳年上の青年と結婚し、14歳の誕生日を迎える数ヵ月前に第一子のダニエルを出産した。
「周りの大人たちは誰も子育てをできるとは信じなかったけれど、私は育ててみせると決心したよ。それから5年後、予定外の妊娠をしたけれど、当時のチャウシェスク独裁政権下では中絶が違法で、...

『Faktum』
1冊の値段/100スウェーデン・クローナ(そのうちの半分が販売者の収入に)
発行頻度/月刊
販売場所/ヨーテボリなど、イェータランド地方の数都市
※掲載内容は取材当時のもののため、現在と異なる場合があります。
この記事が掲載されている BIG ISSUE

503 号(2025/05/15発売)
特集気候政策、SOS!
スペシャルインタビュー:千葉雄喜
リレーインタビュー:落語家 立川寸志さん